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2005年9月19日 (月)

脊髄小脳変性症・歩きにくさ

脊髄小脳変性症の歩きにくさは小脳症状から来るとお話ししました。

それ以外にも歩行障害を来す原因があります。

それは、痙性(けいせい)パーキンソニズムです。

小脳症状に、それらの症状が合わさって出てくるわけです。
小脳症状だけの時より歩きにくくなってきます。

今日は痙性についてお話ししましょう。

脊髄小脳変性症には、孤発性と遺伝性がありますが、そのどちらにも痙性は出現します。

痙性とは何でしょう?
痙性の痙は、痙攣(けいれん)の痙ですね。ひきつる と言うことを示す言葉です。

私たちの運動神経は、脳から脊髄(背骨の中を走る神経の束)まで長い経路を伝って降りてくる一次ニューロンと脊髄から手足に分布する二次ニューロンからなっています。ニューロンは神経細胞を指します。

脊髄にはもともと、筋肉からの情報を受け取り、筋肉の収縮を調節するというシンプルなシステムが準備されています。これはとても鋭敏なシステムで、ある意味「暴れん坊」な側面を持ちます。

わかりやすく簡略化してお話しすると、脳の一次ニューロンは、暴れん坊の脊髄の二次ニューロンの活性化を支配下に置いて、うまくコントロールしていると言えます。

脊髄のシステムをうまく利用することで、脳は自分では運動のプログラムにだけ専念すればいいのです。シンプルな作業は脊髄に任せておけばよいと言うことです。

一次ニューロンは、二次ニューロンを①沈静化し、②自分のやりたいよう運動をこなせるように支配しているのです。

たとえば、一次ニューロンが発達していない(脳が脊髄をきちんと支配下においていない)赤ん坊では、自動歩行反射、把握反射やバビンスキー反射が見られます。

これらは、脳が発達し一次ニューロンが脊髄を掌握していくに従い、消失していきます。

ところが脊髄小脳変性症では、一次ニューロンの道筋の途中で障害が起きることがあります。

すると、脊髄の二次ニューロンが勢いを取り戻し、勝手に活動を開始します。

ですから、痙性は脳卒中など、一次ニューロンに問題が起きる疾患でも重要なファクターとなります。

一次ニューロンが障害されると系統だった命令がこない上に、脊髄の力が増すのです。
これが痙性です。

痙性が増すとどうなるのでしょう。
脊髄には、筋肉からの情報を得て、筋肉の動きを調節するシンプルなシステムがあるとお話ししました。

これが暴走を始めるのです。
つまり、わずかな筋肉の刺激に反応して、筋肉が収縮してしまうようになる。

「つっぱる」と患者さんはおっしゃいます。
しかし、程度が進むと持続性のこむら返りや、貧乏揺すりのような動き(クローヌスといいます)が出てきてとても苦労することがあります。

痛みも伴う。

足の痙性が増してくると、尖足といい、常につま先立ちしているような状態で足首の関節が固定してきてしまいます。
足首をそらせル事ができないので、「足のおいでおいで」ができなくなります。
歩くときにアキレス腱が伸びないので、歩行時の大きな困難となります。

リハビリテーションで常に関節を動かしていかないと予防できません。
現在の医療では、救急医療を元に保険診療費が決定されているので、このような持続的にメインテナンスが必要な方のリハビリテーションを行っていくのは本当に苦しい。

私は、病棟や病院のシステムに何度も頭をさげ、患者さんのメインテナンスリハビリテーションを行ってきました。 でも、これはとても心苦しいさぎょうでした。病院側に赤字をお願いすることと同値なのがわかっているわけですから・・・

もともと、日本の医療のリハビリの中では難病のリハビリテーションは想定外でシステムがありません。

また、痙性のコントロールがうまくいかないと、「拘縮」といい、関節が固まってきてしまいます。

治療はどうすればよいでしょう。
内服薬に脊髄の暴走をなるべく抑える薬があり、それを内服していただくことになります。
あるいは筋肉が指令を受けても収縮しにくくなるお薬を使用することもあります。

ただ、薬が効きすぎてしまうと、今度は力が入りにくくなり(脱力といいます)、よけい運動障害が悪化してしまいます。

そこが難しい。
痙性が減る程度で脱力が出ない位のお薬の量・・・
一番悩ましい所です。

私は、マシャドヨセフ病という痙性が強いタイプの、遺伝性脊髄小脳変性症の患者さんに、バクロフェン髄腔内投与治療法(Intrathecal Baclofen Therapy ITB)を試みようとしたことがあります。

その患者さんの歩行障害は、小脳症状より、痙性による影響が強かったからです。
また、薬剤ではどうしてもコントロールが難しかった。

いい所まで進んだのですが、まだ治験段階ということもあり、実現できませんでしたが・・・

これはバクロフェンという脊髄の暴走をなだめる薬を、植え込み型ポートから持続的に脊髄に直接投与していくという画期的なシステムです。

お世話になっていた、東京女子医科大学脳外科、平孝臣先生にお願いし、いろいろ勉強させていただきました。こちらをご参照ください。

さて、このように脊髄小脳変性症の方の歩行障害は一つのファクターで起きるわけではありません。

私ども神経内科医「なぜ歩きにくいのか」と言うシンプルな訴えに一つずつ答えをだし、お薬を処方していくのです。

患者さんの症状とお薬の種類、量の選択、ほんとに根気のいる作業です。
あきらめずに一緒にやっていくしかありません。

つぎは、もう一つの歩きにくくなる原因、パーキンソニズムについておはなししましょう。

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