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2006年6月12日 (月)

文藝春秋七月号/内容の濃さ/多田富雄先生の文章

文藝春秋七月号を表紙近くのドイツの美術館めぐりの写真に惹かれて購入しました。

いつも載っている響の横のバカラのマッセナに似た響特注クリスタルの広告も好きです。

広告の質が高い。

一番の記事はこれです。

『リハビリ患者見殺しは酷い(むごい)』という免疫学のオーソリティ、多田富雄先生による記載です。

私は神経内科に携わってきたので、今回のリハビリテーションの報酬改訂については深い悲しみを感じます。

また、これまでも、病院内ではリハビリテーションは『非採算部門』と呼ばれ、どれだけ冷遇されてきたか。

私は日本の医療における、個人個人の努力では抗えない、システム上の人を癒すという概念の欠落を深く悲しく思ってきました。

・多田富雄先生は非常に的確にリハビリテーションの核心をついています。

『何よりも、人間を細切れの臓器に還元する、近代医療に対する不審が叫ばれているときに、総合的、全人的に見なければならないリハビリ医療を、なぜ臓器別医療に組み込まなければならないのか。』(P.142、多田富雄、文藝春秋7月号、平成18年)

これまで、こんな的確な指摘があったでしょうか。

最近読んだある医師のてによる現状の医療を嘆く書物など、足元に及びません。

嘆くのは、感想を述べるだけで、意味が無い事に気付くべきです。

なんと、この文章は『維持期のリハビリ』と銘された章に書かれているのです。

これは、ものすごく、すごい!! です。

日本のリハビリは急性期にしか加算がないため、どの病院も、メインテナンスのためのリハビリは行いません。

そして、それを担うとされている介護医療のリハビリは非常に脆弱なシステムしか持たない。

この問題点についても非常に明解にカンパされている。(p.141)

これらの珠玉の文章をリハビリの医師でもない、リハビリスタッフでもない、患者となった免疫学者さんが書かれたというのはとても意味があります。

最近の政府が進めてきた、自由化、医療費削減は効率化とか小さな政府とか言う名目で、沢山の犠牲と切り捨ての上になされた可能性があります。

効率化はその受け皿をきちんと整備しなくてはならない。

在宅医療の現在の限界もそこにあります。

病床抑制をかけた結果、在宅医療は伸びていますが、介護家族の三分の一に『うつ症状』が蔓延しています。

今後も、在宅に戻られる患者さんは急増するでしょう。

あるいは、医療保険費以外の経済的負担による入院が増えるでしょう。

これが、医療費削減の結果です。

圧倒的コストを発生する入院病床数の削減こそが、医療費削減の大きな目標なのです。

医師や看護師は悲しく思い、現場からどんどん立ち去っています。

訴訟や労働環境の悪化を嫌い、女医さんや看護師さんの復職の割合が急減しています。

そのため、都心でも、救急病院が崩壊し始めました。

たとえ給与が半分になってもリスクが無く、ぼろ雑巾のようにならないですむ、自分の専門性を捨てた場所へ流出しているのです。

医師を辞めて蕎麦屋になった人もいるそうです。

年間数百万の給料なら、蕎麦屋さんでも十分つりあうでしょう。

一生懸命蕎麦を打って、たとえ、その蕎麦でアレルギーを起こしたお客さんがいても、警察が乗り込んでくることは無い。

私たちは、一生懸命選別した国に認可された抗生物質による適切な投与で、予想できないアレルギーが起きても、警察が事情聴取にやってくるシステムになっています。

話を元に戻しましょう。

医療的には、中野孝次さんの『ガン日記』が素晴らしい。

淡々と描かれる姿の中に医療システムの問題点が浮かび上がります。

先日亡くなられた米原さんも週刊文春で指摘していた、『名医』や『大病院』でのご苦労が描かれています。

これらの記載は本当の『良医』がどこに居るのか、その方位磁石となり、居場所を指し示していると思いました。

ここにも、『(実際はスタンダードな良心的な医療を続けている)身近な医師はダメ医者でダメ医療をしていて、遠くのどこかに名医が居るに違いない』という幻想を描き続けるマスコミに誘導された共通の医療のゆがみがみられます。

名医が居ても、保険診療で自由には受診できません。

中野さんはずっとからかかられている三代続く地元の良医に良い治療を受けられたことが明らかにされています。

また、『食品添加物がキレる子を作る』もよい記事です。

私が、ボーネルンドの『あそびのもり』で御話した内容と一致しています。

この論者さんは、以前紹介した安部司さんです。

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その他には、『熟年離婚なんかおやめなさい』という坂田藤十郎さんの記事や、佐藤優外務次官による、『ユダの福音書』の記事、政治的な記事など読み応えがある記事が載っています。

さらに、高樹のぶ子さんの小説まであります。

710円は結構高いので、いつも躊躇してしまうのですが、今回は本当に盛りだくさんですばらしい。

多田富雄先生のリハビリテーションの文章を読みながら、私はシステム上、リハビリテーションを断ったり、転院を促してきたこれまでの自分の医療者としての態度に涙しました。

でも、私には他にどうしようもなかった。

勤務医である以上、個人プレーで患者さんの長期入院やシステムの変更はできないからです。

保健医療医は保険システムの中で医療を許可してやらせていただいていると言う立場だからです。

だからといって、患者さんが全てを自費でまかなうのは不可能です。

より良い医療システムのためには、世俗的ですが、ある程度の国家が投入する費用が必要です。

医療費を縮小するのであれば、医療サービスの低下を受け入れて満足する必要があります。

また、救急医療が発達してきた現在、その後の健康維持のための医療も拡大している事はあまり理解されていません。

多田先生や中野さんの心から搾り出すような文章をできるだけ沢山の方々が御読みになり、いろいろ考えていただきたいと思っています。

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