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2006年6月17日 (土)

『医療崩壊』から・2

医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か 医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か
小松 秀樹

朝日新聞社  2006-05
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第二章は『警察介入の問題』です。

医療者の元へ警察が直接介入してくる機会が激増しました。

それには二つのルートと、一つの大きな背景があることが示されています。

民事訴訟にはお金がかかるため、警察に届け出る例が増加したということ、医師法21条にある『死体に異常を認めたときには警察に届け出る必要がある』という条例の解釈のニュアンスが変化したという事が取り上げられています。

これが警察の介入が生まれる二つのルートです。

医療事故か否か不明な時点でも、何らかの医療行為前後に患者さんが死亡した場合、直ちに警察に届け出る必要が有るという判例がなされました。

警察に届けるか否かを医療機関が判断する余地は有りません。

そのことによる弊害が大きくなってきているのです。

医療機関は予想しない形で患者さんが亡くなると、すぐに警察に連絡します(そうする義務があるからです)。

すると、警察は死亡の原因を独自に調査しますが、それらの情報は病院には知らされません。

医療機関は死亡の原因も分らずに、それまでの状況から誠心誠意の言葉で患者さんにご説明する事になります。

患者さん側には警察から剖検(解剖)の結果を踏まえた事実が知らされます。

剖検にかなう事実はありません。

どんなに装置を駆使しても、腸管にあいた数ミリの穿孔を見分けることはできません。
ガンの浸潤や広がりをおなかを開ける以上に正確に知る装置はありません。

医療機関の必死の説明と、警察側の剖検に基づいた事実には食い違いが出てくることは容易に理解できます。

ですが、患者さん側は、『そんな事もわからなかったのか』ということになり、医療裁判へと突入していきます。

医療者は善意の元に働いている人が多く、犯罪を犯そうと計画した犯罪者ではなく、とてもナイーブな人々の集団です。

そのため、医療者は取調べもしやすく、警察にとっては楽な対象物です。

逃げも隠れもできず、医療行為は全て記載されているので、証拠保全もすぐにできます。
そして、その介入自体が警察関係者には出世につながる。

あれほど大きな問題を提示し、地方における医療や善良な医師を崩壊させた警察官たちは出世し、その地方を去りました。

ある日、突然、彼らは普通に診療している外来にやってきて、医師を逮捕するように連れ去っていったのです。

犯罪者なら、自分の犯した犯罪を思い浮かべて、『とうとう捕まった』と思うでしょう。

医師はどうでしょう。涙が出ます。

彼らは介入し、立件する事自体で昇進するのです。 

これが警察側の医療機関へ乗り込む動機付けの背景です。

また、世論を背にして、医療機関という伏魔殿(これも幻想ですが)を暴く『正義の味方』に映りたい希望がある。

これらの背景を元に、医療機関に警察が直接乗り込んでくる機会が増えました。

医療システムを改善していくという建設的な目的を持たない、もともとは犯罪者の逮捕を目的とした、医療を理解する人材が存在しない警察のシステムに医療機関内の問題を解決させようとする事自体に大きな問題があります。

このような事例の繰り返しは、医療者の医療行為を萎縮させ、危険性のある患者の入院を避けるように作用します。

これは、『かかりつけ医』の崩壊も意味します。

なぜなら、訴えられる前に大きな病院を紹介するからです。
そして、大きな病院は、さらに救急病院、大学病院へと転送します。

『私は呼吸器専門医では無いので、自身がないので、転送します』と当直の内科医に、夜中に他府県の遠方の救急病院へ転送された軽い肺炎の患者さんの苦情をお聞きした事があります。

その患者さんは、かかり付け医と大差ない抗生物質の内服が出され、タクシーで帰宅したそうです。

もう既に現実のものになっているのです。

突き進めると、国内に、対応してくれる病院がみつからない場合も発生するかもしれません。

このように日本では、医療機関の善意に基づく結果であっても、犯罪者同様、警察が担当することになるという矛盾を抱えています。

よきサマリア人 というたとえ話からうまれた、『よきサマリア人法』というものがあります。
偶然遭遇した困難に直面した人に施しをした場合、それが十分でなくとも免責されるというものです。
ところが、最近は、自らの何らかの医療行為で不利益が生じると犯罪者と同様、警察に裁かれる事になるので、緊急時に飛行機の中などで手を挙げる医師が極端に少なくなりました。

同じ事が救急医療でも発生していて、収容先が見つからないという状態が散発しています。

警察の介入による医療者へのダメージが、患者さんを拝見する僅かな保険診療収入をはるかに上回っているのです。

警察の介入はどんどん防衛医療(医療者が危険を避けるための行動に基づいた医療)を進めています。

多くの医療者は、手錠を思い浮かべながら、診療行為を行っています。

病院の医局でも、昼休み、『気管内挿管失敗したらお縄だもんなあ』『IVH入れるときに、走行が通常じゃない動脈を穿刺して、手錠かけられる夢みたよ』とカップヌードルを食べながら仲間と話したものです。

昼休みのテレビには連日医療事故と医師逮捕のニュースが流れていました。

私たちは、医師の後ろに警察官が見張っている戦場で勤務しているようでした。

何かあると即逮捕される恐怖に怯えながら医療を行っていたのです。
患者さんとはまだ会話するチャンスがありますが、警察は話し合う余地の無い、逮捕する権限を有する国家機関です。

恐ろしい世の中になりました。

今回は、やはり私見をもとに、この章のごく一部分について触れました。

本書には、ジャーナリズムの問題、世論という実態の無いものによる医療崩壊の原因についても述べられていますのでご参照ください。

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