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2006年7月23日 (日)

判決理由の蛇足部分/井上 薫 元裁判官さんのお話/2

先日、井上馨元裁判官さんのお話を御伺いしてきました。

司法のしゃべりすぎ 司法のしゃべりすぎ
井上 薫

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月末にまた新刊が出るそうで、楽しみにしています。

井上氏はもともと化学の専門家で理系の方でした
そのベースがあるところから裁判官になられたので、客観的に様々な裁判官さんの御仕事を見ることができたようです。

お話の内容は、二つです。
『判決理由の蛇足』
『判例重用の弊害』でした。

週刊誌で、『判決理由の蛇足』についての議論を読んでいたのですが、ピンときませんでした。

ところが、井上氏の話を聞くと、『なるほどそうか!』と思う話ばかりでした。

例えば、このような話をされていました。

ある裁判が起こされるとします。

裁判で審議が尽くされ、ある判決がなされます。

ドラマでもよく出てくる、「主文・・・」という判決が出るわけです。

裁判官は判決の理由を書かなくてはならないと法律で決められています。

それは判決の理由であって、それ以外を書いてはいけないとは決められていません。

でも、井上氏は言います。
「法律でやっても良いといわれている範囲しか、やってはいけないというのが法治国家の仕組みであって、禁止されていないというからやるというのは裁判官の越権行為である」と。

その通りですね。医師であっても、どの職業でも、禁止されていないからと言う理由でさまざまな事を行うわけには行きません。

井上氏はわかりやすい例を教えてくれました。

主文: 無罪 と言う判決で、その理由は、「被告人の行為が存在してもしなくても、結果が変らないので、本判決では被告人の関与自体が無いので無罪である」というものでした。

ところが、裁判官はそこに井上氏の指摘する『蛇足』を付け足したのです。

「でも、被告人にも落ち度があるから反省するように」

これは一体どういうことでしょう?

この一文は、判決には関係ない、裁判官の意見です。酷い例になると、

「本来であれば、国がこの件における法制度を見直す必要が有るのであるが・・・」と滔々と一般論がなされる事があるそうです。

いったい、裁判の当事者に法律の一般論を語って、何か意味があるのでしょうか?

井上氏はこのように、裁判における判決理由には、判決に直接関係無い裁判官の自己アピール文が多く見られ、大きな弊害を生んでいると指摘しています。

たとえば、「落ち度があるから反省するように」でも「無罪」という判決が出た場合、どちらも控訴できません。

被告人は無罪なのに、社会的に断罪されておしまいです。
特殊な裁判における判決理由の一般論化が生む弊害についても述べられていました。

井上氏の理論は整然としていてわかりやすい。

この点でのお話は一点に集約できると思いました。

「判決理由は直接その判決に関連した理由だけを述べれば良い。」
余計な感想を書くから、判決内容と関係ない憶測や、弊害を生む。


そういうことだと思いました。

裁判官であるときから、裁判官の越権行為であると述べ続けてきた井上氏。

きっと大変な重圧だったでしょう。

私はカッコいいなあとおもいました。

様々な反論が寄せられていますが、「再任拒否」が理由にはならないと思います。

私は、判決理由に裁判官さんのご意見を書くのは最小にすべきだと思います。

その代わり、判決についての感想を述べる自由はあるわけですから、論文を寄稿すればよいのです。

公文書で感想や意見を述べるのは避けなくてはいけない、ましてや、判決とほぼ反対の事を述べるのは弊害が大きいのでは無いかと感じました。

判決理由に厚みをもたせるという通例上、難しい問題かもしれませんが、その通例に弊害が潜んでいるかもしれません。

次回は、判例重用の弊害について書きます。

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