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2007年11月17日 (土)

『医療と法を考える』を読んでいます

今、樋口範雄先生の『医療と法を考える』を読んでいます。

医療と法を考える―救急車と正義 (法学教室Library)
医療と法を考える―救急車と正義 (法学教室Library) 樋口 範雄

有斐閣  2007-10
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臨床神経学の委員会でもお世話になった、辻東京大学神経内科教授のコメントが紹介されています。
「しかしながら、医療の現場にいる立場からは、このような法律論で議論することがどうしても馴染まない所があると思う。・・・」(pp.162)

もともと医療と通常の法制度の整合性を保つことはとても難しい事が分かります。

外来に患者さんがいらっしゃったとしましょう。
その時点ですでに、法律的な解釈に困難が生じています。

医療システムが患者さんを拝見するのは『契約』でしょうか?

もし『契約』だとすると、誰と誰の契約なのでしょう?
クリニックの医師は開設者ではありますが、保険診療システムを委任されている任命者という側面を持ちます。
それでは、病院においては、院長先生と患者さんが契約を結ぶのでしょうか?担当の医師でしょうか。事務サイドの職員の方でしょうか。
患者さんと国民健康保険あるいは社会保険システムが『契約』を結び、委任された医師がその作業を担うという側面もあるのです。(アメリカのHMOはまさにそのシステムです。)

品物を商店から買うことと、患者さんを医療システムが拝見することの意味は全く違うわけです。

品物を商店から買うときには、金額と商品を交換するという『契約』が成り立っています。

人が人を不完全な技術でなんとか癒すという医療において、『契約』という言葉は成り立ちにくい。

医療を支えているのは、医療者達の善意に支えられた義務(フィデューシアリー)です。
目の前の患者さんを何とか良くしたいという『魂』がエネルギーとなり、医療現場は動いています。

そして、通常はとてもうまく機能している。
良質な医療システムによって人々は安心感を得ています。

そういった人の心に宿るソフト的な『正義』のようなものを反映した法制度から、現在の日本の法制度はだいぶ離れていると述べられています。
『契約』という言葉自体が馴染まないわけです。

この本のとても良いところは、静かに、法は人々をまもり、社会の利益のためにあるべきだという思想が貫かれているところです。
『法律にこう書かれているから、常識からはかけ離れているけれども、これが正しい。』
ではなく、
『法律の整備が不備だから、常識からかけ離れた事になってしまう。それでは、どう法律を整備するのがよいのだろうか。』
という論点が爽やかです。

大部分の人々は日々の生活をささやかでも健康に暮らしたいと願っています。
有限の命を持つ人の幸せは、個人が持ちきれないほどの富の向こうではなく、物質的な大きさには関わらない、目の前に広がる心の豊かさをかみしめる心のあり方に依存すると思っています。
物質を積み上げても心の満足にはいたらない。
物質というハードと、人の心というソフトは本質的に異なるものです。

私は、高級なレストランの壁が作る陰の形にも、おいしいおそば屋さんの少し削れた椅子の角にも同じ満足を感じます。
外から作られたものでは人の満足は生まれないと思っています。
そういった外殻自体には魂が宿らないことは、ghost in the shell(攻殻機動隊)の時にも書きました。
それが、「TAO-ism的な生活」が良いと思っている理由です。

そのようなささやかな暮らしを支えるルールが法律です。

人々が願う、健やかにくらせる社会を支える法律の整備の現場に、樋口先生のような専門家の方々がいらっしゃるということを、とても心強く思いました。

こういった本はなかなか書店でも見つけられません。
そして、一つずつしっかり作業が進んでいるのは頼もしい限りです。

クリニックでも、仕事が増えても一生懸命がんばってくれるスタッフ達の後ろ姿を見ながら、一つずつでもきちんと仕事をすることの清々しさを感じていました。
「もともと、『きちんと作業をする楽しさ』というものが、私たちに備わっているのだなぁ」と信じた瞬間でもありました。

先週も、頭痛の連発から解放された方々とクリニックでお会いしました。
これからも一つずつ、きちんと仕事をしていくことを大切にしていきたいと思っています。

この本は、救急診療に当たっていたときから、今日まで、日々の診療の中で、ずっとモヤモヤしていた点を、どこに問題点があるのか明らかにしてくれました。
そして、それに対する明快な回答を用意するという気持ちよさも兼ね備えています。

久しぶりにモヤモヤを解決してくれる良書だと思いました。

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