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2008年6月12日 (木)

真実をたどる道/哲学者/生物学者/小説家/漢文2

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891) 生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)
福岡 伸一

講談社  2007-05-18
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前回の続きです。
動的平衡は医療に大切なことで、患者さんに良くお話ししています。

それでは、生物と無生物の違いはなんなのでしょう?

宇宙には沢山のものが存在しているけれども、ヒトは宇宙の一部とは言うけれども、私たちは生命の息吹を意識し、そこに安らぎを感じます。

福岡先生は生命に宿る活動性、動的平衡(ダイナミックイクイブリアム)にその解を求めました。
私も同感です。

今日存在し、明日もそこに存在するといういみでは、岩石も私たち(突発的な事がなければ)も同じかもしれません。
でも、決定的な違いがあります。
私たちは見た目、あまり変わっていませんが、体の内容物が大きく入れ替わっている点です。
同じ物が作られているため、そこにあり続けるように見えるだけで、中身は入れ替わっているのです。
私は、外来で脳や骨の動的平衡について患者さんにお話しすることが多いです。
骨粗鬆症はなぜおきるのかを取り上げてみましょう。

多くの方は、現在、自分に存在する骨のカルシウムが次第に抜けていってボロボロになっていくようなイメージを持っています。
ところが真実は違います。
骨は、『骨回転』という言葉があるぐらい、細胞も細胞の中の物質も入れ替わっているのです。数ヶ月ですっかり置き換わってしまいます。
できてくる骨よりも吸収される骨が多いことが、骨粗鬆症の原因なのです。
この話を理解していただくためには、外来で動的平衡の話を欠かすことはできません。
骨粗鬆症の薬剤をこの点から見ると、骨吸収抑制と骨合成促進が重要な事が解ります。

例えビタミンDと原材料のカルシウムを沢山摂取しても骨重量は増しても骨折のリスクはあまり変わらないと言う論文もあります。動的平衡の重要性を示しているのだと思います。
Osteoporos Int. 2008 May;19(5):673-9. Epub 2007 Nov 13
Calcium and vitamin D intake influence bone mass, but not short-term fracture risk, in Caucasian postmenopausal women from the National Osteoporosis Risk Assessment (NORA) study.
Nieves JW, Barrett-Connor E, Siris ES, Zion M, Barlas S, Chen YT.

動的平衡の面から骨密度を改善させる薬剤では、骨折に対して有意な報告がなされるようになりました。こういった薬剤がさらに進化するなら、より良い報告がなされるでしょう。
高血圧と動脈硬化、糖尿病と腎障害、脳血管と片頭痛、みんな一緒です。

動的平衡の話題は外来では欠かせないものです。

こういった仕組みを持つメカニズムが宿る物が生命と言ってよいでしょう。

山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫) 山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)
中島 敦

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DNAや細胞複製の仕組みが解らなかった、古代ですら、同じ様な問いかけをしている事をこの本は教えてくれます。

『悟浄出世』に『世界は、概観による時は無意味のごとくなれども、その細部に直接働きかける時始めて無限の意味をもつのじゃ。悟浄よ。まずふさわしき場所に身を置き、ふさわしき働きに身を打ち込め。』と言う文章に代表される内容が繰り返し出てきます。
これは、『動的平衡に置いてこそ生物としての意味を持つ。』と読み替える事が可能です。
私たちの細胞やミトコンドリアや核などの細胞内小器官は、けなげにも『ふさわしき場所に身を置き、ふさわしき働きに身を打ち込』んでくれています。
そして、動的平衡に達している。
悟浄は、何らかの行為を続けていくこと自体に生きる意味があることを悟り、孫悟空のお供のカッパの沙悟浄になり、三蔵法師を助ける事になります。

14歳の君へ―どう考えどう生きるか 14歳の君へ―どう考えどう生きるか
池田 晶子

毎日新聞社  2006-12-23
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池田晶子さんは『人生』の章でこうつづります。
生きている意味は誰にもわからない。
すでに、私たちは宇宙の仕組みとして、(すでに動的平衡の存在として)そこに存在している。
だから、自分が良いと思う本当の人生を歩むだけでよいのだ。と。

その前に『お金』の章で『良いと思う』尺度にお金は入らない事を彼女は述べています。
『お金』の価値は社会の状況でクルクル変わる。
お金の金額だけを追い求める中毒に陥ってしまうと終わり無い地獄となる。
お金はヒトの作った変化の激しい仕組みに過ぎない。
満ち足りた幸せをもたらす、変わらない仕組みはヒトの中にある物だけだ。と。

こうやって、全く違う時代、全く違う分野、全く違う国で書かれた多くの書物に同じ事が描かれていると考えています。
禅や、大脳生理学の茂木健一郎さんが述べていること、老子のタオなども同じでしょう。
そこにヒトとしての真実があると考えるのが自然な事ではないかと思っています。

自然とは、『自』と状況を現す『然』の字の組み合わせです。
そこに存在するという意味です。
決して、人類の対義語ではありません。
ヒトは自然の中に包括されています。

既に存在している動的平衡という危ういバランスの上に存在し続ける生命。
宇宙も同じです。物理法則の中で星や空間は動的平衡を保ち続けている。
何かの理由で存在したわけではないので、なぜ、そこに存在するのかという理由を問う質問は無意味なわけです。理由が無いのですから。
あるエネルギーを保存したまま運動を続けている。そこに意味が生まれる。

それらを、いとおしく思い、生き続ける事。
その宇宙の物理学が自分を透過し、他の存在とつながっている事を知ること。
その中に真実があるのだと考えています。

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