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2010年1月12日 (火)

インフルエンザの講演会/インフルエンザ脳症の仕組み/まだ終わらない流行/岡部先生のお話

以前何回かお話しさせていただいた岡部先生が出席されるため、インフルエンザの講演会に伺いました。

インフルエンザによる脳障害は主に血管内皮細胞障害であるという発表がなされていました。
山口大学の神田教授のもとで、ヒトの大脳由来の内皮細胞の純粋培養に成功した日々を思い出します。
J Neurosci Res. 2004 Oct 1;78(1):141-50.
Glycosphingolipid composition of primary cultured human brain microvascular endothelial cells.
Kanda T, Ariga T, Kubodera H, Jin HL, Owada K, Kasama T, Yamawaki M, Mizusawa H. Department of Neurology and Neurological Science, Tokyo Medical and Dental University Graduate School, Tokyo, Japan.

私たちの研究成果まで、純粋なヒト由来の脳血管内非細胞培養は成功していませんでした。ある程度の量を培養し、その細胞膜の特徴をHUVECという臍帯内皮細胞と比較したものです。

インフルエンザでは、特徴的な障害があるとのことでした。
一つはエネルギ代謝異常、もう一つは酵素の出現(アップレギュレート)とのことでした。

私たちの細胞は、主に糖分脂肪をエネルギー源にして暮らしています。

インフルエンザが私たちの体に入ると、様々な炎症物質が急激に放出されます。
この炎症物質が過剰になったり、過敏になると、糖分の代謝が悪くなります。

脳の内皮細胞は糖分からはエネルギーを得られなくなるため、脂肪を燃やすことでエネルギーを得ようとします。
ところが、もともと脂肪からエネルギーを得ることに専念してそれ以上燃やせる幅の少ない小児や、生まれつき脂肪からエネルギーを得ることが苦手な体質の人(CPT2のポリモルフィズムによる)は、脂肪からのエネルギー増加が見込めず、エネルギー不足になってしまいます。

エネルギー不足に陥った脳の血管は機能不全に陥り、血管から水が漏れだしてしまいます。

さらに、こういった炎症物質が体にあふれると、通常は食べた肉を分解するために胃腸に分泌されるはずのトリプシンという酵素が、脳の血管内皮細胞に出現するというのです。

私たちが血管の細胞を培養していたとき、トリプシンやパパインといった酵素で細胞をいったんバラバラにしてシャーレにまき直していたものです。
トリプシンは細胞同士の結合(タイトジャンクション)を「消化」し、細胞同士の結合を切る働きがあるからです。
それが、脳の血管に分泌されてしまうというのです。

この、エネルギー不足とトリプシンなどのタンパク分解酵素の分泌により、急激に脳血管は破壊され、圧がかかっている血管内から脳に水が漏れだしてしまいます。
その結果、脳はむくみ(脳浮腫)機能障害とともに、頭蓋骨内の圧が高まり、致命的になります。
インフルエンザウイルスそのものによる脳細胞の障害ではなく、エネルギ代謝異常とプロテアーゼのアップレギュレートが、インフルエンザ脳症の首座であるということでした。

ですから、脳症の治療は、過剰になる炎症物質を減らすこと、エネルギ-代謝異常を改善させること、タンパク分解酵素(プロテアーゼ)の阻害になっていくと思われます。

注射によるワクチンでは、私たちの体にIgGという血液内の免疫物質だけしか作ることができませんが、鼻粘膜に噴霧するワクチンはIgAという粘膜に分泌される免疫物質も誘導することができます。
今後、アジュバントを工夫し、現場で使えるようになるとのことでした。
また、控えめではありましたが、新薬の抗ウイルス薬の開発についても触れられていました。

インフルエンザの治療には
◎インフルエンザウイルそのものに対する治療
◎弱った体に取り付いてくる細菌による二次感染の制御
◎私たちの体の免疫反応の制御

の三つをきちんと治療していくことが必要な訳です。

過剰な免疫反応は、かえって私たちの体を傷めることになり、インフルエンザ脳症のような合併症を引き起こしてしまうからです。
その方法についても触れられていました。

新型インフルエンザの遺伝子学的特徴の発表に引き続き、岡部先生から全国からリアルタイムに収集が続いている疫学的特徴の講演が続きました。
流行は収束したかのように見えるが、今年に入り上昇に転じている地域もあること。
また、小児の流行は落ち着いているが、大人、高齢者の割合は増加していること。
今年は、新型インフルエンザ以外のウイルス感染症患者数が減少していること。
などが発表されました。

面白かったのは、ワクチンに対する理解が深まったことなどもあり、今年は麻疹感染者数が激減したとのことです。
実は数年前まで、小児のワクチン拒否の親御さんのために成人してから命に関わるような重症感染症となる方が散見されたとのことですが、現在は激減しているということでした。
ワクチンは小児のうちに打つからこそ意味がある訳です。

また、公表されているインフルエンザによる救急隊の出動数が、その後の集計とリニアに相関しており、もしかすると最も早く鋭敏な指標になるかもしれないということも興味深いデータでした。

スペイン風邪も、人々が一息ついた後の第二波で大きな被害がもたらされました。
ウイルスの変異や社会環境によると言われています。
ですから、安心せず機会があるなら、きちんと新型インフルエンザの予防接種をしておくのも良いでしょう。
今後もどのように推移するか、見守る必要があります。
収束するなら、幸運です。

色々な細胞細胞培養で細胞死の研究をしていたころを思い出す講演会でした。
細胞培養の研究は、論文に結びつく結果になったものの方が少なく、本当に苦労しました。
講演会は人数がとても多く混雑していましたので、直ぐに帰宅しました。
途中で購入したナチュラルローソンのバジルパスタを食べながら感慨にふけっていました。お気に入りのとろろソバは、冬にはありませんので仕方ありません。

現場の兵隊には目の前の現象に全力で治療に当たる力しかありませんので、こういった疫学的な全国的な俯瞰図は、感染制御の戦略上とても役に立つものです。

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