自分で歩いていらっしゃった方で、血圧が少し高いぐらいで、特に変わったところはありませんでした。
項部硬直という(今月発刊の頭痛の本をご参照ください)脳に異変がある時の症状もありませんし、なにより吐き気だけが問題でした。
でも、診るからに具合悪そうです。
「突然起きて、ずっと続いている」というのが大変に気にかかりました。問いに対する答えも少し遅い感じがします。
そこでとりあえずCTを撮ることにしました。今日は新患の方があまりに多く、その方に割ける時間も10分ほどしかありませんでした。
別の喘息の方の話を聞いているときに電話が鳴りました。
「先生、大当たり、大変です! くも膜下出血です。」
(くも膜下出血については後日お話ししましょう)
放射線科の先生もあわてています。
「会社からここの外来まで、歩いていらっしゃったのに・・・」私は絶句し、冷たい汗が一滴また背中を流れました。
私は、臨床医として、この一滴の汗を流すたびにたぶん、100日ぐらい寿命が縮んでいるのでは、と思っています。
でも、その代わり、患者さんは何年もの命を得られるのだから、お安い物です。
くも膜下出血は、脳外科さんに診てもらわなくてはなりません。
そこで、私がこのあたりでは、もっとも腕がよいと信頼しているS先生に電話し、救急車に同乗し、急ぎ、広尾にある日赤医療センターに駆けつけました。
今日、私が乗った救急車です。
東京消防庁が数分で当院まで送ってくださいました。
日赤医療センター救急外来に到着です。あわてて引き継ぎした後、携帯で撮影しました。
救急外来の自動ドアを開けるときにはいつも緊張します。
でも、壊れていて、いつもなかなか開きません。
救急車の中は皆さんにはなじみが無いと思うので、ご紹介しましょう!
何回も救急車に乗っているのですが、僕も今日、初めて写真撮りました。
ストレッチャーと呼ばれる救急車に入れられる移動型ベッドです。
しっかりと車内に固定できる形をとっています。
また、清潔を保つため、不織布のブルーのディスポの布で覆われています。
見ずらくて、ごめんなさい。救急車が急いでいて揺れています。
奥から見て右側には、血圧計や、血液中の酸素の濃度を測る機械が並んでいます。奥には手洗いの場所まで完備されています。
狭い車内に本当に効率よく機械が収納されていることが分かります。
これらの整備を救急隊員の方は怠ることはありません。
天井を見てみましょう。
奥から向かって左側の天井です。
金属のバーが見えます。
なんでしょう?
スクープストレッチャーといい、患者さんを乗せる部分が二つに割れ、上からかぶせた後、患者さんをすくうように乗せる担架です。
交通外傷の方などに使います。その奥にはメッシュの中に必要な機材がしまわれています。
照明も蛍光灯と明るいスポットライトが完備され、点滴も500mlのものが複数、準備されています。
私が乗ったときにはラックテックという血圧が下がったときによく使われるリンゲル液の仲間の輸液が積まれていました。
このように、狭い車内に効率よく人の命を守るために救急車は作られています。
同乗すると、一般道で止まってくれない車や、違法駐車の車に泣かされます。
目の前に助けたい人がいるのに・・・
救急隊の人も「道を空けてください。急いでいます。」と言っているのに・・・
また、急性アルコール中毒のように自己責任で防げる若者がトイレに行くために救急車を呼ぶこともあったり、とても悲しい気持ちになる事もあります。
私は、救急隊の方と話すと、いつも、その真摯な姿勢に心打たれます。
たとえ、理不尽な理由でも彼らは要請があれば駆けつけ、誠意を持って要請した方に接し、全力を尽くします。
ぜひ、救急車は人命救助のために訓練を受けた救急隊がいつも整備している大切なシステムであることを理解していただきたいと思っています。
今日、彼らは、一つの命を守りました。発症から1時間半で専門医に患者さんをお連れすることを可能にしました。
本当に一つの命を守ったのです。救急隊のシステムが守ってくれました。
そう思います。このシステムを社会は大切にすべきです。
今日は、本当にありがとうございました。ささやかなブログの片隅で心から御礼申しあげます。
そして、びっくりしたことに、15年ぶりに母校の同窓生に会いました。アフリカで医療を行って帰ってきて日赤医療センターで外科医をしているとのことでした。
彼は、たまたま救急で呼ばれて、救急外来にいたのです。
なんて言う偶然でしょう!!人生、不思議なことが起きる物です。