2006年1月13日 (金)

脊髄小脳変性症の本

先日、作業を進めていた、脊髄小脳変性症の本が完成し、到着しました。

060111_17520001脊髄小脳変性症のすべて と言う本です。
東京医科歯科大学の神経内科が中心となり、共同執筆したものです。

我々の教室は、臨床と基礎研究のバランスの取れた良い教室だと考えています。


脊髄小脳変性症のすべて
脊髄小脳変性症のすべて 水沢 英洋 月刊『難病と在宅ケア』編集部


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神経内科はこれから急速に進む高齢社会に置いて、最も重要な科になるでしょう。

こちらに、私たちの紹介のページがあります。
東京都の重要な病院にがんばって医師を配置していますが、ニーズに答え切れず、歯がゆい思いをしております。

東京で勤務希望の若い医師の参入をお待ちしています。

ご興味がある方は、どしどしご連絡ください。

投稿:by ドクターレポリス 午後 02時52分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年11月29日 (火)

脊髄小脳変性症の治療薬

沢山のことが分ってきましたが、脊髄小脳変性症の原因はいまだ不明で、その進行を止めることはできません。

小脳のふらつきを少し和らげるお薬として、セレジストというお薬が良く使われます。

セレジストは、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)の働きを持つ合成薬物です。

以前は、ヒルトニンという同じTRHの働きをもつ注射薬が用いられていました。
甲状腺の機能と小脳の働きが関係あるのでしょうか?

TRHの小脳失調への効果は、ローリングマウスナゴヤ への効果があるところから発見されました。

ローリングマウスとは、遺伝性の『すぐ転んでしまう(ローリング)マウス』というところからつけられました。

TRHは生体内ではもともと、甲状腺刺激ホルモンを出させるホルモンで限局したところにだけ働くものです。

ところが、外部から投与すると、脳のいろいろなところに働いて、小脳症状を和らげると考えられています。

Biol Pharm Bull. 1997 Jan;20(1):86-7. s


Distribution of thyrotropin-releasing hormone (TRH) receptors in the brain of the ataxic mutant mouse, rolling mouse Nagoya.

Kinoshita K, Yamamura M, Sugihara J.

この論文には、TRHがくっつくレセプターのある場所が脳に広く散在していることを示しています。

TRHはこのように脳の中のさまざまな神経を活性化し、いろいろな伝達物質を増やしたり制御したりして、小脳症状を和らげる作用を有しているのではないかと考えられています。

投稿:by ドクターレポリス 午後 05時23分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年11月15日 (火)

脊髄小脳変性症の症状の進み方

脊髄小脳変性症は静かにゆっくり進行していく疾患です。

でも、その進行度合はさまざまです。

私は40台ぐらいで発症され、どんどん症状が進んでいった方と、80を超えてもなんとか歩けている脊髄小脳変性症の方を診ています。

脊髄小脳変性症には遺伝性かどうかだけでなく、さまざまなパターンがあり、その進行度合いは個人間で大きく異なります。

ですから、どのようなケアが今大切なのか、その話し合いがもっとも重要となってきます。

歩行障害が先に悪化する方、飲み込みが先に苦手になる方。

小脳の病気でもあり、脊髄の病気でもあり、筋肉が弱る病気でもある脊髄小脳変性症。

その症状は千差万別です。

ほんとに千差万別。
家族模様も千差万別。

いろいろなことを思い出して、筆が進まなくなってしまいました。
今日はここまでにします。ごめんなさい。

昔はヒルトニンというお薬の注射がありましたが、今はセレジストという飲み薬があります。

次回はこれらのTRHと小脳の働きについてお書きしようと思います。

投稿:by ドクターレポリス 午前 09時47分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年11月 6日 (日)

小脳に障害があるかどうかの確かめ方

SCDkatana

これは、私が以前、神経内科の絵本を作成したときに、脊髄小脳変性症の章のために描いた絵です。
患者さんが、「ゆらゆら左右に揺れて、刀を持っていたら、地面に突き刺して、体のゆれを止めたい」とおっしゃった発言を絵にしたものです。

波の上に浮かぶ天秤に刀を背負ったウサギが立っています。
天秤には、小脳のマークをつけました。

「月日が経っていくのが恐い。また、次の月が明けるのがいやになる。」
とおっしゃっていた情景を後ろの月で表現しました。

この絵はとても評判が良く、いろいろな脊髄小脳変性症の患者様にプリントして差し上げていました。

背中には刀。
患者様のゆれを止めたいという願いと、これからの症状の進展がもしあっても、守ってもらえるようにという願いをこめたものです。

ところで、小脳の調子が悪いかどうかはどうやって調べるのでしょうか?

私たち神経内科医は、体に張り巡らされている神経システムを系統だって診察する訓練を受けています。

顔に行く神経、手足の運動神経、感覚神経・・・

そして、小脳の調子も調べます。

小脳の機能はフィードフォワードと、動作を滑らかにすることであるということは以前お描きしました。

それを手、足、体、歩き方などで調べるのです。

手では指鼻試験といい、人差し指で鼻の頭を正確に触ってもらうのです。
もちろん眼を開けた状態で良いのですが、小脳に障害があると、まっすぐスーッと触れることができなくなります。
カクカクした動きになってしまいます。
そして、無事に鼻の頭に到着できない。
動作の滑らかさが失われ、フィードフォワードが働かず、違うところを指差してしまうのです。

足では、同様のことを ひざかかと試験ということで調べます。
かかとで、反対側のひざをトントントンと数回タップしてもらい、すねの上を滑らせてもらうのです。
小脳に障害があると、かかとをひざに正確に着地させることが難しくなり、すねの上を滑らせるときにカクカクした動きとなってしまいます。

小脳の症状は、歩いてもらうときにもっともはっきりすることがあります。

私たちは二足歩行をしていますが、その際、重心は常に移動しています。

アシモというロボが二足歩行を可能にしたとき、人々は驚きました。
開発者が、「転ばないようにと開発していたときはうまくいかなかった。常に転びかけるという動作の連続として歩行を考えたら、うまくいった。」という発言はとても興味深いものです。
こちらに、歩行時の重心の移動の図が載っています。

人間は小脳が大変に速いスピードで演算を繰り返し、歩行することができるのです。

小脳のつくりは独特で、同じ演算回路が無数に並列されている構造をとっています。
すごく早いCPUが一個あるのではなく、ある程度のスピードを持った演算システムを並列で動かしているのです。
これは、実は最新のスーパーコンピュータと同じ構造であることがわかってきました。
場所により、システムが全く異なる大脳とは全く違う構造をとっています。
この辺の話もとても面白いのですが、次回にしましょう。

微妙に体の筋肉を伸び縮みさせ、重心を適切なところに配置しているのです。

小脳が障害をうけると、この演算スピードが落ちてしまいます。

すると、重心の移動幅が大きくなってしまい、ゆらゆらした歩行になってしまいます。

このゆれに耐えて、転ばないようにするためには、足を左右に広げる必要があります。
ですから、小脳に障害が起きると、wide based gaitという、足を左右に広げた独特の歩行になります。

この辺は、酔っ払いのような歩き方 とも表現されることもありますが、酔っ払いの千鳥足とは少し違う、小脳の障害による独特の歩き方になります。

私たちは、このような症状があるかどうか、どういったときに現れるのか、他の神経症状との関連などから、神経系の異常が何者であるか、判断していくのです。

投稿:by ドクターレポリス 午前 11時41分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年11月 3日 (木)

経鼻経管栄養

食事を口から食べることを経口摂取といいますが、脊髄小脳変性症の症状が進行すると、経口摂取が難しくなることがあります。

そういった場合、経鼻経管栄養という方法をとることがあります。

これは、鼻から柔らかな細いチューブを胃まで通して、そこにミキサーした食事や、栄養剤を注入する方法です。

経鼻チューブの挿入はベッドサイドで行えます。特別な手術などは必要ありません。

まず、潤滑ゼリーをまとわせた柔らかなチューブをどちらかの鼻孔に挿入します。次に、少しずつそのチューブを奥へ送りながら、ご本人に嚥下動作を繰り返してもらいます。うまくいけば、するすると食道側へチューブが入り、無事先端が、胃へ到達します。

チューブ挿入が最も難しく、事故がおきやすいのはこの食道側へチューブが進むかどうかの点です。人ののどの奥では、空気の出入り口であり、肺へと続く『気管』という道順と、食べ物の入り口であり、胃へと続く『食道』という道順の二つの道が合流しています。我々は無意識に空気を吸うときには気管へ、食べ物の時には食道へと選別しています。

脊髄小脳変性症では、その選別がうまくいかないために、食べ物が肺に入ってしまい、誤嚥性肺炎を起こしてしまうわけです。

小脳が、脊髄が、パーキンソン症候群が・・・というより、脊髄小脳変性症ではそれらがあわせ技でこの病気の一つの症状として、嚥下障害が出てくるのです。

胃にチューブが到達したかどうかは、チューブに勢い良く少量の空気(20-30ml)を挿入し、胃液の中を空気が混ざる独特なブクブクあるいは、ブクッ!という、泡沫音を聴診器で聴取することが多いです。

でも、誤って肺内に留置されてしまった際や、食道の途中に先端が「とぐろを巻いている」様な状態でも、胃内と非常に紛らわしい音が聴取されることが知られています。

そのため、レントゲン撮影にて確認することが推奨されています。在宅医療では、レントゲン撮影を行うことは不可能ですから、泡沫音の確認とともに、逆に陰圧をかけて胃液の逆流も確認するなど細心の注意が必要です。

経鼻胃チューブが挿入されていても、口は塞がれませんし、食道の径の大きさははチューブより大きなものなので、誤嚥を起こさない程度に経口摂取は可能です。ただ、食べるものは、医師やリハビリテーションスタッフと相談し、どのようなものなら大丈夫か良く検討する必要があります。

胃チューブは誤嚥を防ぐものではないからです。

このように比較的簡易な処置で可能な経鼻経管栄養により十分な栄養を摂取することができますが、いくつかの難点もあります。

一つは、チューブの不快感です。チューブを顔面に固定せざるを得ないため、不快感やテープによるかぶれなどは避けられません。また、鼻孔内、食道、胃にチューブの圧迫による潰瘍が出現することがあり、長期連用には限界があります。

胃チューブを挿入していても、栄養注入による唾液の増加や痰の排出の効率の悪化より、誤嚥の危険は完全に取り去られたものではないことに留意する必要もあります。

投稿:by ドクターレポリス 午後 05時41分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年10月31日 (月)

経口摂取困難とは

いま、水澤英洋東京医科歯科大学教授監修の「脊髄小脳変性症のすべて(仮)」(難病とケア刊の、経口摂取困難から経管栄養までという章を書いています。

書き始めてみたものの、とても難しい。

ずいぶん沢山、いろいろなケースで、いろいろな場面に遭遇し状況を打破してきましたが、総論で書くというのはとても大変です。

それは、脊髄小脳変性症の症状や進行度合いがとても個性的だからです。

それほど、食べる苦労をされていないように思えても、急に誤嚥をおこしてしまったりすることがあります。

また、逆に、時間がかかりながらも結構上手に食べている方もいらっしゃいます。

それでは、一回でも飲み込むのを失敗したら、すぐに経口摂取をあきらめなくてはならないのでしょうか?

私たちだって、結構食べ物を吸い込んでしまい激しくむせることがあります。
飲み込むのを失敗することは、日常でも見られることなのです。

どこで、栄養の補助経路を導入するか。
それは総論では語れない難しい問題だと、改めてかみ締めています。

でも、アウトラインは書くことができるでしょう。
がんばって、締め切りに間に合わせなくては。

投稿:by ドクターレポリス 午後 05時26分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年10月29日 (土)

在宅医療の問題/脊髄小脳変性症の胃ろうは他の胃ろうとどこが違うの?

10月28日付けの産経新聞に、平成16年度から保健医療のシステムが改善され、在宅医療の連携を強化するという記事が載っていました。

これはとても大切なことです。

10月26日に、雨の北千住の夜、在宅医療の方々とお食事をしたのですが、まさにその点がみんなの悩みの中心点でした。

脊髄小脳変性症などの難病では、ご自宅で見ていても、いろいろな原因で病院と自宅を行ったりきたりする事が多いのも特徴だからです。

現状の医療システムでは、
実はこれまで、このようなことを行うのが大変に困難でした。

在宅医療とバックベッドとよばれるすぐ入院できる病院の関連が薄かったため、具合が悪くなるたびに別な病院に運ばれるということが良くありました。

たとえば、運動神経の病気であるALSという疾患で在宅医療を行っている患者さんが、呼吸が苦しくなり、紹介を受けてくださった、かかりつけの病院に連絡したことがあります。

ところが、救急病院であるその病院は、入院が長期化しそうという理由で診て下さいませんでした。
その結果、その患者さんははるばる東京にある私の病院に2時間かけて搬送されてきたことがあります。

無事肺炎を乗り切られ、その患者さんは民間救急車で自宅に戻られました。

あるいは、先日もお話しましたとおり、胃ろうのトラブルで、やはり私の病院に入院しなくてはならなかった遠方の方もいらっしゃいました。
脊髄小脳変性症のような、「小脳や脊髄などの神経の病気」は難しくて診れないというのが、その地域の病院の見解でした。
もともとの病気と胃ろうは何の関係もありません。

脊髄小脳変性症の胃ろうも、脳梗塞など他の病気の方の胃ろうと、何も変わらない。これが本日の題名の答えです。

理由にならない理由で断っているとしか思えません。

このような状況では、その地域にご紹介した意味がありません。

また、中核になる病院を設定するのだけでも大変な苦労です。
受けてくださる病院や先生が見つかると、転院の苦労の7割は解決されます。

神経難病の患者さんがたが非常に苦労されているのは、まさにこの点でもあるのです。

神経内科の医師が少ないことにも原因はあるのですが、どうも、多くの病院では、ほかの救急の患者さんに比べて、(実際とは異なる)入院が長引きそう、ケアが大変そうという点から、神経系の患者さんの受け入れを拒む傾向があります。

今回の報道では、在宅の患者さんに対し、24時間の在宅医療を展開できるなら、保険点数の加算を行うというインセンティブを医療機関に持たせるという報道でした。

このような悩みにおいては、高齢者医療と神経難病の在宅医療はとてもよく似ています

どちらの医療も、バックベッド探しにひたすら苦労しているのです。
具合が悪くなるたびに、救急隊が救急病院に電話をかけまくるというのが通常のコースです。

現在の救急医療は、交通事故や心筋梗塞などの単発の救急医療には大きな力を発揮します。

ところが、永続的に在宅医療と救急病院を行ったりきたりする患者さんの医療を全く想定していないシステムとなっています。

また、このような神経難病や、高齢者の状態の悪化のような、緊急を要するけれどもさまざまな処置や装置の使用頻度の少ない救急医療は、コストが発生しにくいので、どの病院も経営の面から、よりコストの高い疾患にシフトしていってしまいます。

私は、ある救急病院で、地域密着型のケアが十分できる神経内科を行いたいと申し出たところ、言下に「私たちが求めている神経内科医はひたすら脳血管造影を行い、脳梗塞の加療を2週間だけ行いすぐに転院を図れる、救急医療型の医師である。従って、理由は理解するが、君も君の行いたいという、そういった(もうからない)医療は当院としては全く必要ない。」と申し渡されたことがあります。

一方で、在宅(高齢者)医療を日本は推し進めようとしています
この救急病院側の理念と、在宅医療者のあいだには大変大きな溝が横たわっています。
(私は、何とか解決可能だと思っているのですが・・・)

もし、在宅医療を質の高いものにしたいのであれば、きちんと在宅医療と救急入院医療機関が密接に連携をとる必要があります。

昨年私が、医療情報の連続性と連携という面から論文を書いたのは、今後の医療の問題がその点に集約されると考えたからです。
また、このような医療連携をうまく行うことができれば、医療が総合化され、無駄が減り効率化されるので、全体的な医療費の低下を計れます。

正面から向き合い、「神経疾患の患者さんは判らない」というだけで言い逃れができない制度にする必要があります。

在宅で苦労されているご家族に、更なる追い討ちをかけるような医療制度から脱皮しなくてはなりません。

どのような問題が現在起きているか、制度の変化でどのような利点があるか、厚労省の研究会で来月、全力で話し合ってみようと思っています。

制度は来年、良い方向に変わります。

それを受け、医療機関はどのように変わるのか。

大変に注目すべき点です。

保険点数の加算を受けながら、カスタマーの要請にこたえられなかった場合の第三者による評価をしっかりしていくべきです。

もし、私に救急病院のあり方を申し付けた上記の病院が、24時間体制で在宅を診るという加算を取るようなことがあれば、それなりのケアを新たに始めたと理解すべきでしょう。

加算を受けた施設であるのか無いのか。

制度に従ったサービスを提供しているのかどうか。


さらなる情報のディスクロージャーが医療機関には求められています。

これまで患者さんたちと一緒に超えてきた苦労を考えたら、こみ上げるものがあり、今日は辛口になってしまいました。申し訳ございません。

投稿:by ドクターレポリス 午後 12時48分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年10月22日 (土)

脊髄小脳変性症の画像

「そんなに小脳はやせていないけれど、脊髄小脳変性症だと思います。」

私たち神経内科医はそう診断することも多くあります。

「脊髄小脳変性症は、小脳がやせたり、脳幹がやせたりして、機能が悪くなる病気でしょ。 どうして、やせてないのに脊髄小脳変性症って診断がつくのですか?


当然の疑問です。
MRIなどの画像上で見えるものは何なのでしょう?

人間の脳は常に活動し機能している組織です。

無数の電気回路が縦横無尽に張り巡らされ、情報が蓄積され、演算を繰り返しています。

脊髄小脳変性症、パーキンソン病、アルツハイマー病では、この神経細胞が(まだ理由はわからないのですが)ダメージを受けていく病気です。

何らかのダメージが生じて、機能障害を起こしている段階では細胞の形もそのままであり、大きな物理的変化は起きていません。

この段階で、MRIを撮っても変化が無いのです。

小脳炎という病気があります。
小脳にウイルスなどで炎症を起こす病気ですが、たとえひどい小脳症状を出していても、小脳がやせたりはしていません。

また、パーキンソン病で、MRIがほとんど異常の無い方は沢山いらっしゃいます。

たとえそういったMRIで異常が無いばあいでも、詳しくPETなどの検査をおこなうと、ある神経細胞が機能していなくて、必要なトランスミッター(伝達物質)が圧倒的に不足していることが判明したりします。

言い換えると、たとえ、MRIではどこも脳がやせていなくて、ダメージが無いように見えても、静かに機能低下を起こしている神経細胞の存在が、機能を調べる別な検査で明らかになったりするのです。

機能が高度に傷害されても、画像上はっきりしないこともあります。
つまり、通常のMRIは機能を見ているのではなくて、形や性質の大きな変化を主に見る検査なのです。大きな変化でないと、異常値としては検出できません。

こういった機能障害と画像の乖離(かいり)は神経内科領域ではよく見られます。

ですから、臨床の症状を一生懸命拝見し、誘発筋電図や脳派などの電気生理検査などほかの機能を調べる検査を組み合わせて、病気の性質を明らかにしていくのです。

そこが、難しいところであり、また、神経内科医がよくディスカッションするポイントでもあります。

まだ神経細胞が減っていなくて、機能が低下している状態ではMRIでは明らかにならないこともある ということです。

パーキンソン病の患者さんでは、とても体の動きが悪い状態になっても、MRIではほとんど正常ということも良くあります。

今、患者さんに見られる症状は(たとえ画像上異常が無くとも)脊髄小脳変性症の症状に間違いないと考えられる事があります。

これが、「MRIであまり異常がないのに、脊髄小脳変性症です」と診断した根拠なのです。

MRIは脳梗塞に関しては、非常に小さな異常も検出できます。
しかし、静かに徐々に神経細胞がダメージを受けて、脱落していくような疾患を捉えるのは苦手です。

神経変性疾患と呼ばれる病気では、多くの場合、機能低下が画像の変化に先行します。
ですから、私たち神経内科医は臨床所見を拝見することを、もっとも大切にしています。

検査には検出する異常の限界があるという良い例だと考えています。

投稿:by ドクターレポリス 午前 10時20分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年10月15日 (土)

1リットルの涙/懐かしい題名

私が以前読んだ『1リットルの涙という本がドラマ化されたということを聞きました。
読んだのはたぶんとても前のことで、今、またアマゾンに注文しています。

当時、私も題名どおり涙を流したことだけを覚えています。

それから、沢山の脊髄小脳変性症の方々と沢山の時間をすごしてきました。

友人がドラマの事をお話してくださっていていたのですが、国際学会などに紛れてしまい、忘れてしまっていました。

今日、CM見て思い出しました。

「そうだった!」
早速火曜日9時にPSXの予約を入れました。

脊髄小脳変性症の方々のご苦労がメジャーになるのなら、とてもよいことです。

脊髄小脳変性症友の会でも取り上げられているので、ドラマ化よいことだと思います。

多くの方々が脊髄小脳変性症に触れることは大切なことだと思います。

共感は知るところから始まります。

ALS(筋萎縮性側策硬化症)の在宅医療も、知られるところから少しずつ進んでいます。

私が大昔に本を読んだ時とは、在宅医療の進む現在とは全く違う環境に変化しています。

こういった環境の変化を迎える中で、改めてさまざまな方々が脊髄小脳変性症に触れられるのは大変に有意義なことだと考えています。

私が胃ろうの病理を報告したりしてきたように、小さな発見とケアの積み重ねが少しずつ未来を切り開いてきたのでした。

名古屋大学の17-AAGの発見遺伝性脊髄小脳変性症の臨床病理の報告などもそのひとつです。

京都で行き違いでお会いできなかった脊髄小脳変性症の方、胃ろうのトラブルで入院された方、沢山の方々の沢山のいろいろな方法、それぞれに生き方が凝縮されています。

難病のため、在宅医療を行っている患者様の居らっしゃる、京都と名古屋にはまた是非行きたいと思っています。

投稿:by ドクターレポリス 午後 10時09分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年10月14日 (金)

脊髄小脳変性症のあたらしい治療薬

数ヶ月前に水澤先生のセミナーの講師としてお招きした名古屋大学祖父江先生の教室が、17-AAGという抗生物質の誘導体が、ポリグルタミン病に効果を持つことを発表しております。

脊髄小脳変性症には、いくつかのタイプがあるのですが、あるたんぱく質に、普通より長いポリグルタミンが作られることで引き起こされるタイプがあります。

こういったタイプの脊髄小脳変性症には朗報といえます。


名古屋大学さんには、ALSの患者さんの件などで、本当にお世話になり、臨床もすばらしい教室です。
こういった、患者さんのケアもすばらしい教室から、世界に冠たる基礎研究が発表されるというのは、大変わくわくするものです。

抗生物質には抗癌作用を持つものがありますが、そのひとつである、ゲルダナマイシン(geldanamycin)の誘導体がこのポリグルタミン病の進行を抑えたとのことです。

ポリグルタミンという物質は、水に溶けにくいシート構造の固まりになりやすく、その形態が細胞に害を与えるのではないかと考えられてきました。

アルツハイマー病では、アミロイドという物質がポリグルタミンにあたります。
もし、17-AAGがいろいろな有害なものが細胞の中で固まりになるのを防ぐのだとしたら、さまざまな難病への治療の道が開かれます。

ゲルダナマイシン自体は毒性があるため、抗癌作用を持つ分子を確定し、作用機転を保ったまま、新たな誘導体を作るという分子標的薬とよばれるもののひとつです。

分子標的薬はターゲットにした細胞内物質の活性を失わせる手法で、新たな創薬の手法です。

これまで、薬は偶然の産物として発見されることがほとんどでした。
あるいは、偶然発見されたものを変化させたりして、新たな薬を創ってきました。

ところが、さまざまな病気が起きてくる仕組みが遺伝子レベルでわかるにつれて、その仕組みにターゲットを絞り、病気を治療しようという試みがなされてきました。

この17-AAGという物質もまさにその分子標的薬のひとつなのです。

17-AAGのこの発見は、治療薬としての有用性がもちろん一番大切なことです。

さらに重要なことは、治療が難しいため、神経“難病”とよばれてきた病気が、遺伝子レベルでその発症メカニズムが解明されつつあり、さらにそれをターゲットとした、分子標的薬まで登場してきたというパラダイムシフトにあると思っています。

当教室で行っている、RNAによる治療もまったく同じ考えです。

神経内科疾患は新時代に突入し、今後さらに発展していくことでしょう。

私は、この報告はまさにその点が大切な点だと思っています。

すごい時代になりました。

投稿:by ドクターレポリス 午後 06時27分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年10月 8日 (土)

栄養経路と誤嚥

脊髄小脳変性症の患者さんで、食べ物がうまく食べれなくなるお話を先日しました。

起こしてくるのが「誤嚥」というトラブルです。

誤嚥とはあまり聞きなれない言葉です。


私たちののどは大変に巧妙な仕組みで、空気を吸って肺に送る経路と、食べ物を胃に送る経路を分けています。

空気を飲み込んで胃に入ってしまってもなんら問題はありませんが、
食べ物が肺に入ると大変なことになります。

肺は大変に繊細な組織です。

薄い膜で空気と細かな血管が接していて、体の中にたまった二酸化炭素を外に排出し、酸素を体に取り込む作業を常時行っている組織です。

食べ物は数日間食べなくても大丈夫ですが、呼吸は数分とまってしまうだけで重篤な状況に陥る、大変に重要な作業です。

食べ物がこの肺の組織に入り込んでしまうのが誤嚥なのです。

ふつう、気管という空気の通り道に食べ物が入ってくると、咳反射がおきて、人は激しく咳き込みます。

ところがこういった反射は脳幹部に中枢があります。

脳幹部の障害も起きてくる脊髄小脳変性症では、反射も衰えてきます。

飲み込みのところでの選別がうまくいかない上に、咳反射も衰える・・・
こういった複合的な障害により誤嚥が起きてくるのです。

間違って入ってきたものが少量の場合は、肺に居るお掃除細胞が分解し、吸収あるいは、痰として排泄します。

ところが、迷い込んだ食べ物の量が多くなると肺炎を起こしてしまいます。

ピーナッツなどの豆油脂が肺に重篤な炎症を起こすことはよく知られています。

ピーナッツのように食べ物はそれ自身が炎症を惹起し、また、肺の中では気体でない異物ですので、物理的に障害をきたします。

また、口の中や食べ物に含まれるばい菌も肺に落とし込むことになります。

こういった、空気から隔絶されたばい菌と食べ物の塊を肺は処理することが難しいのです。

ですから、肺の組織にばい菌が取り付いておきてくる通常の肺炎に比べて、誤嚥による肺炎(誤嚥性肺炎)は重篤になりやすい。

食べものの形態を変えたり、体位を整えたりして、誤嚥を防ぐ工夫をしなくてはならないわけですが、それでもどうしても飲み込みが難しくなってきたときには、代替の方法を探っていくことになります。

早めに手を打つことが、命を救うことにもなります。

脊髄小脳変性症と別の飲み込みが悪くなる病気の方が、一時の療養目的に入院されたとき、誤嚥の兆候がありました。

よくお聞きすると、やはり、誤嚥がすでにおきつつあることがわかり、窒息寸前になっていたこともわかりました。

もともと診られていた慶応大学と相談し、何回も電話連絡を行い早めに転院。
慶応大学医学部神経内科教室の対応は大変に迅速でした。

私どもの情報を得ていた彼らは、経口の食事からチューブ栄養に直ぐに栄養補給経路を変えてひとつの命が救われました。

肺炎を起こしてしまうと、よくなるまで、次の手が打ちにくくなってしまう。

時期を逃さず、代替経路に切り替えていく必要があるのです。

投稿:by ドクターレポリス 午前 10時47分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年10月 6日 (木)

脊髄小脳変性症の本が出版されます!

脊髄小脳変性症の診断やケアはなかなか大変なものです。

私たちは難病とケアという雑誌に連載をしてきたのですが、それが一冊にまとめられることになりました!

神経内科の第一人者の水澤英洋教授監修によるものです。

外来診療をしていると、一本の電話がなりました。

懐かしい、編集長さんの声です。

私たちが在宅医療での、ALSの東京下町での実態や呼吸管理の便利な知識を、在宅医療のクリニックの婦長さんやケースワーカーさんと執筆した雑誌社でした。

懐かしい!!

その後、脊髄小脳変性症の連載がその雑誌社でたまたまはじまり、私たちの教室の医師が交代で執筆いたしました。

それが再編集されて最先端の知識にてリフレッシュされ、出版される計画とのことです。

私は、薬物治療の他に、青山病院の有名なケースワーカーの方と社会保障についてのことについても執筆することになりました。

「大丈夫かなあ」と思いながら、お引き受けしたところ、また電話が鳴りました。

「栄養管理の部分についても書いてもらえませんか・・・」

時間的に厳しいのですが、胃ろう管理などでは大変に苦労してきたので、そういった現場の問題に直面してきた人間がいいかなあ

でも、時間的にとてもタイトだなあ

と思っていたのですが、気持ちよく承諾してしまっていました。

なんと、今日は、胃ろうでトラブルのあった脊髄小脳変性症の患者さんが入院された日だったのです!

そういった経緯があったので、疲れ果てた診療の合間でも何とか力になりたいという気力がまたわいてきたのでした。

東京が洪水に見舞われて、停電になった日、バッテリー切れが迫る人工呼吸器管理のALSの患者さんのまさに入院日でベッドが用意されていたお話をいたしました。

がんばっている人を守る神様がどこかにいなくてはいけないと信じた一日でした。

僕たちも努力して神様をよびよせなくてはいけない。
そう思いました。

投稿:by ドクターレポリス 午後 09時20分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年10月 3日 (月)

栄養経路の話

脊髄小脳変性症などではものをかんだり飲み込んだりする事が苦手になるというお話をいたしました。

このような話題をとりあげている、まさに今日の午後、脊髄小脳変性症で胃ろうというチューブを挿入した、長年にわたり拝見している患者さんから
「栄養剤がチューブの脇からもれてきているのですが・・・」
というご相談を受けました。

栄養の管理というのは難しく継続的なケアが必要なものです。

小脳症状からそういった症状が出てくるのですが、もうひとつ、脳幹部の障害も大切な問題です。

脊髄小脳変性症には小脳だけの症状のものと、脳幹部にも影響が及ぶものがあることを最初にお話いたしました。

脳幹部の障害も合併(一緒に症状を出してくること)してくると、すこし、難しくなってきます。

人間の中脳(ちゅうのう)、橋(きょう)、延髄(えんずい)とよばれる脳幹部には、人間の命を支える、呼吸(息を吸ったり吐いたりすること)や循環(血圧の状態や脈拍の数)、ものを飲み込む、自律神経(体の状態を一定に保つ神経)、顔に行く神経の中枢などが集まっています。

ですから、脊髄小脳変性症で脳幹部も障害されると、小脳の症状に加え、飲み込みが特に傷害されてきます。

脳幹部のうち、橋の付近は小脳からの線維や大脳から下降する線維、さまざまな中枢が集まっており大きな「球状」の形をしています。

そのため、脳幹部の障害によって引き起こされる、飲み込みにくさ、しゃべりにくさなどは、別名「球麻痺」ともいわれます。

脊髄小脳変性症の食べ物が食べにくくなる症状は、小脳の症状+脳幹の症状(球麻痺)によるものだったのです。

歩きにくさに関しては、小脳症状+痙性やパーキンソンニズムのことがあるのに似ていますね。

こういった症状が出てきた際には、症状に応じて、いろいろな代替経路を考えていくことになります。

投稿:by ドクターレポリス 午後 09時40分 in 07.脊髄小脳変性症
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食事の飲み込みと小脳症状・W21Sに感謝

人間は食事によって栄養をとっています。

食事とは、人間の生命をつなぐエネルギーやいろいろな栄養素を取り込む行為です。

通常私たちは物をかんで飲み込み胃や小腸で栄養を吸収するという作業をおこなっています。

脊髄小脳変性症などの疾患では
それが上手にできなくなることがあります。

物を食べるというのは、実は巧妙で複雑なメカニズムの上に成り立っています。

ものをうまくかむ(咀嚼(そしゃく))、というのは、歯で食べ物を砕き、唾液と混ぜ合わせる作業です。

このとき、うまく顎を上下に適切に動かす必要があります。

また、舌は食べ物をうまく口の中で移動させます。

唇は食べ物が外に出ないようにうまく閉じています。もちろん、食べものを口に入れる時には唇は開くわけですが・・・

脳や脊髄など、中枢の病気ではさまざまな理由でこの、かむという行為が難しくなります。

たとえば、小脳の働きが障害される脊髄小脳変性症では、小脳症状と呼ばれる症状がでてきます。

別項でお話しましたが、小脳は反対の動作をすばやく行ったりフィードフォワードを行い、人々の生活に大変重要な働きをしています。

小脳が障害されると、アゴを上下に動かしたり、唇を閉じたり開いたり、舌を左右上下にすばやく適切に動かすことが難しくなってくるのです。

飲み込むという動作も、いくつもの のどの筋肉の共同作業ですが、それもうまくいかなくなってきます。

これは、お話をするときにも問題になってきます。

こんなことがありました。

まさに、出張に行くために新幹線のぞみに乗ろうとしたとき、携帯電話がなりました。

病院からで、患者さんの家族から相談の電話が入ったというのです。
私は、告げられたところに電話をかけました。

「なんかしゃべりにくいんですよね」
とその患者さんはいいました。少しお話して私は思いました。

「このしゃべり方は小脳失調症状がでているしゃべり方だ!」
つまり、彼の小脳に何らかのトラブルが起きていることを示しています。

「大変申し訳ないのですが、私は今、関西に高速で移動中なので、病院に戻れません。けれども、当直の先生によくお話しておくので、かならず救急外来に来てくださいね。」

すると、数日後連絡がありました。
先生、小脳出血でした!先生のおっしゃったとおり、嫌がる主人を救急外来につれていってよかったです。」
とのお礼の電話をちょうだいしました。

このように、小脳症状は、飲み込みにくさやお話のしにくさにも影響を与えるのです。

症状が進行した場合、食べ物が飲み込めなくなってきます。

そうした場合、どのような栄養補給経路があるのでしょうか。
これらについてはまたお話することにしましょう!

でも、彼の場合、出血が早くわかってよかったです。
私は、帰りの新幹線の中で、小脳症状の特徴を伝えてくれたAUソニエリ携帯にお礼をいいました。

時代は進んでいて、こういったガジェットが人の命を救うことがあるんだなあ と感慨深くおもいました。

投稿:by ドクターレポリス 午前 11時14分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年9月29日 (木)

大間違いのテレビ番組・神経内科と脊髄小脳変性症と過換気症候群

TBSテレビの 本当に合ったもうひとつの世界の中心で愛をさけぶ は医学的に問題が多すぎてよくなかった。

なんと、過換気症候群の発作で命を落としたような番組だったのです。

しかも、受診したのが神経内科。

出演されたご本人方に罪はありません。
医学的誤り以外のストーリーは感動すべきものでした。

男性の優しさが伝わる良いお話でした。

問題点は、ひたすら医学的検証を怠ったTBSに問題があると考えています。

過換気症候群は以前のコラムでもご紹介しましたとおり、血中の溶解炭酸ガスの減少により引き起こされる状態です。

命にかかわることはほとんどありません。

ほとんどの場合、ご自分や周りの方が対処できるものなのです。

救急医療でも過換気症候群の出動が多くて問題になったことがありました。
まず、自分で対処するのが大切なのです。

不安発作から過換気症候群になられる方が多いのに、さらに不安をあおるような事実誤認に基づく番組はひどすぎる。

救急医療体制にも悪影響を及ぼすでしょう。

しかも、自分で対処しようとがんばっている過換気症候群で悩まれている方を無視した番組といえます。
不安を増長させてしまった。

過換気症候群のためにうつ伏せで寝てしまい、窒息したというストーリーでしたが、納得しがたいものです。

なぜなら、たしかに、重症の過換気症候群では意識がもうろうとされるかたもいらっしゃいます。

でも、救急外来でペーパーバック法を用いて数十分で改善することがほとんどです。

過換気症候群で大人がうつ伏せで窒息するほどの昏睡になることはないのではないでしょうか。絶対に無いとは言い切れないと思いますが・・・

百歩譲って、万が一呼吸が止まったとすると、炭酸ガスが蓄積し、過換気症候群の症状は改善するはずです。

嘔吐物による窒息、あるいは薬物による昏睡ならありうるかも知れない。

何か大切な情報が欠けてしまったのでしょう。

さらによくなかったのは、過換気症候群の治療をするのが、神経内科だったこと。

過換気症候群は脳や脊髄の病気から起きるものではなく、心因性のものですから、治療に当たるのは、心療内科あるいは精神科です。

もともと混乱を引き起こしやすい名前のところに、追い討ちをかけてしまった。

私たち神経内科は脊髄小脳変性症などの、中枢の疾患を扱う内科医です。
訂正を出していいただきたいぐらいの気持ちでいっぱいです。

以前も書きましたが、オリコンチャートでも神経内科と精神科は同じカテゴリーでした。

これも検証不足です。

医療的な誤認から、視聴者や医療体制に大きな混乱を与えた点において、この番組の罪は重いといえます。
 

ゴールデンタイムのテレビの内容がこれでは困ったものです。

日本では、自分の身を守るため、質の良い医療情報を得る方法を知らなくてはいけなくなってきているのかもしれません。

医療番組でないから、事実と異なって良いということかも知れませんが・・・

投稿:by ドクターレポリス 午後 11時30分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年9月25日 (日)

パーキンソン病・遺伝性から孤発性へ/脊髄小脳変性症への応用

<最先端の神経疾患の知識を楽しく、わかりやすく。リンクフリーです。>

昨日、本日と神戸で行われた国際パーキンソン治療シンポジウム(ISPD)に出席しました。

神戸はとても美しい、良い都市です。先日お会いした、新選組!の大石学先生が取り組まれている分散型首都機能構想にもうなずけます。
東京は混みすぎ。
神戸に首都機能の一部があったら、時々伺うことができて、とてもうれしいです。

さて、脊髄小脳変性症の所でもお書きしましたが、遺伝性の神経疾患の手がかりが、孤発性の方の病気発症のメカニズムにせまる手がかりになる事があります。

講演された先生方はオールスターキャストという感じの顔ぶれでした。


最先端のエキサイティングな多くの新しい知見を勉強することができました。

今回はその一端をお話することにします。

Warren Olanow先生(Mount Sinai大学神経内科神経科学教授NY, USA)の先生のセッションがもっともエキサイティングでした。

Ten Years of Parkinson's disease: progress in pathogenesisというここ10年のパーキンソン病発症メカニズムについての神経科学の進歩について、総括されたすばらしい講演でした。

脊髄小脳変性症や、パーキンソン病などいろいろな神経疾患では、神経細胞がアポトーシスに陥って、機能障害が起きてきます。

パーキンソン病ではレビー小体という、タンパク質のからなる独特の固まりが神経細胞の中に出現します。

細胞の中では、様々なタンパク質が生産され、分解されています。
不要になったタンパク質や出来損ないのタンパク質は処理されていきます。

そういったタンパク質は、ユピキチンという「もういらないよ」という印を付けられます。(これをタンパク質のユピキチン化といいます)

ユピキチンが付けられたタンパク質は、プロテオソームという工場のようなところに運ばれ処理されます。
このユピキチン化と処理するプロテオソームの組み合わせのシステムをユピキチンプロテオソームシステム(Ubiquitin-Proteosome System:UPS)と呼んでいます。

これは、細胞が元気に生きていくためには必要不可欠なものです。

遺伝性パーキンソン病ではこのユピキチンプロテオソームシステムに必要な因子が、遺伝的に不完全になってしまっていることが解明されました。

たとえば、順天堂大学の水野良邦先生のチームが解明した日本発の優れた業績があります。

ユピキチンプロテオソームシステムに必要不可欠なパーキンというタンパク質のユピキチン化に大切な因子が遺伝的に不完全なために、神経細胞がアポトーシス(細胞死)に陥り、パーキンソン病を発症すると言う物でした。

これらのことから、ユピキチンプロテオソームシステムとパーキンソン病の関連性が解明され、様々なユピキチンプロテオソームシステムの異常による遺伝性パーキンソン病の解明がすすみました。

ユピキチンプロテオソームシステムがパーキンソン病発症に大変重要であるなら、と言う観点から、それでは、孤発性の(遺伝性でない)パーキンソン病では、ユピキチン化の因子はもとより、処理するプロテオソームに異常がでるのではないか?という端緒が開かれました。

現在、孤発性パーキン病の病気発症のメカニズムの解明に向け、研究が進んでいるところです。

このようなユピキチンプロテオソームシステムシステムの破綻はもしかすると、脊髄小脳変性症、あるいはアルツハイマー病などにも応用がきく考え方かもしれません。

なぜなら、脊髄小脳変性症などの神経細胞にも凝集体とよばれるタンパク質の固まりが出現するからです。

このように、遺伝性神経疾患で解明された物が、孤発性の疾患のメカニズム解明に役立つことがあるのです。

Olanow先生の御講演は、まさにその遺伝性疾患の神経細胞の情報が、より多数の孤発性神経疾患のメカニズム解明に役立つということ。

ひいては、圧倒的に多い孤発性パーキンソン病や、脊髄小脳変性症の治療薬実現へ近づくというセオリーがリアルに実現したことをしめしているのです。

すばらしい!

治療法が今はまだ少ない神経疾患において、世界中でメカニズムの解明がすばらしいスピードで進んでいることを示しています。

病気のメカニズムを解明するということは、ともすると、あきらめムードも漂いがちだった、神経疾患の根治療法に一条の光を与え、われわれ神経内科医に勇気を与える物なのです。

神経疾患のこれまでの10年はこのようなすばらしい進歩の連続でした。

日本が神経疾患の解明に果たした役割、特に水野教授率いる順天堂大学チームの果たした役割は臨床上も非常に大きいと考えられます。

今回のISPDも水野教授がいらしたから世界中の一流の先生が一同に会し、実現できた物と考えられます。

これからの10年は、さまざまな新しい解析システムが開発されているので、さらに遙か先まで解明されるでしょう。

日本からは、こんな素晴らしい発見や開発も発表されているのです。

私は臨床の場から頼もしく治療法の解明を心待ちにしています。

投稿:by ドクターレポリス 午後 09時53分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年9月23日 (金)

脊髄小脳変性症・神経細胞死

<当サイトは、良質な情報を共有することを目指しているため、どのページもリンクフリーです>
<数週間にてのべ読者数が大台に乗りました。ありがとうございます。>

脊髄小脳変性症の症状については、幾つかの事をお話ししてきました。

では、なぜ、そのような症状が出てきてしまうのでしょう。

その鍵は、アポトーシス(apoptosis)によるプログラム神経細胞死(programmed neuronal cell death)です。

神経細胞は、肝臓や筋肉の細胞のように細胞死と再生を繰り返す臓器ではありません。

最近になり、神経細胞も再生していることが知られるようになりましたが、基本的には神経組織は再生能力に乏しい臓器です。

そのため、神経細胞にダメージを与える環境にさらされ続けると、神経細胞は静かに死んでいってしまいます。

細胞が死んでいく「細胞死」にはアポトーシスと言うものとネクローシスというものがあります。

生きている細胞が何らかの理由で死ななくてはいけない場合(多くの場合、宿主の人間そのものの存在を守るため)二通りの方法があると言うことです。

私たちの細胞は、生きていくプログラムだけではなく、死んでいくプログラムも用意されているのです。

ウイルスに入り込まれてしまったとき、
自分が年老いて新しい細胞と交換しなくてはならなくなったとき、
沢山創られて淘汰されたとき など、
細胞は周りに迷惑をかけないように死んでいくプログラムのスイッチを入れます。
そういった、系統だったプログラムされた細胞の死をアポトーシスと言います。

プログラムされた制御された細胞死であるため、プログラム細胞死とも言われます。

生きている細胞の中では核のDNAから盛んに遺伝子情報が読み出され、沢山の物が創られ、排泄され活発に活動しています。

アポトーシスのスイッチを自分で入れた細胞は、それらの動きを止め、細胞自体が小さくなり、最後はDNAが断片化されていき、機能を停止します。

最後に、核は散り散りになり(核の断片化)、細胞も小さな粒にこわれていきます。
細胞を包む膜は最後まで残っており、周りに迷惑をかけることはありません。

その後アポトーシスに陥った細胞はマクロファージと呼ばれるお掃除細胞に食べられたりして、無くなって行きます。

こうやって、私たちの体の中では、細胞が生まれ、死に、総体の個としての人間の姿を保っているのです。

一方、ネクローシスは細胞の意思(周到に準備された死へのプログラム)と関係なく、細胞が死ななくてはならない状態をさします。

たとえば、やけどをして、組織が死んでいく時や
急に血管が詰まってしまって組織が痛んでいく時、
外から組織がつぶされて、こわれていくときなど、細胞は自分の中に用意されているプログラムを使える機会も与えられず死んで行かざるを得ません。

これがネクローシスです。
ですから、そのようなネクローシスに陥った細胞からは周りの細胞を傷つける物が沢山放出されてしまう。

ですから、血行障害による組織のネクローシス、壊疽(えそ)はその後のその毒性により、重篤な状態に陥るのです。

のちほど、少し前の論文、「中枢神経疾患における細胞死」細胞2003年8月号について書いてい見ても良いかもしれません。あるいは他の論文でも良いかもしれない。 

じつは、脊髄小脳変性症の患者さんの脳では、神経細胞のアポトーシスが進んでいるのです。

それでは、なぜ、アポトーシスが進んでしまうのでしょう?

遺伝性脊髄小脳変性症で、その解析が進んでいます。
遺伝性脊髄小脳変性症の方の病気に関連する遺伝子が確定されると、
その遺伝子が作るタンパク質が特定できます。

すると、通常無いタンパク質を調べることで、神経細胞死のメカニズムに迫れると考えられているからです。

孤発性脊髄小脳変性症のメカニズムと共通するものもあるかもしれない。
次回は、どのような研究が進んでいるかについてお話ししましょう。

投稿:by ドクターレポリス 午前 11時01分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年9月19日 (月)

脊髄小脳変性症・歩きにくさ

脊髄小脳変性症の歩きにくさは小脳症状から来るとお話ししました。

それ以外にも歩行障害を来す原因があります。

それは、痙性(けいせい)パーキンソニズムです。

小脳症状に、それらの症状が合わさって出てくるわけです。
小脳症状だけの時より歩きにくくなってきます。

今日は痙性についてお話ししましょう。

脊髄小脳変性症には、孤発性と遺伝性がありますが、そのどちらにも痙性は出現します。

痙性とは何でしょう?
痙性の痙は、痙攣(けいれん)の痙ですね。ひきつる と言うことを示す言葉です。

私たちの運動神経は、脳から脊髄(背骨の中を走る神経の束)まで長い経路を伝って降りてくる一次ニューロンと脊髄から手足に分布する二次ニューロンからなっています。ニューロンは神経細胞を指します。

脊髄にはもともと、筋肉からの情報を受け取り、筋肉の収縮を調節するというシンプルなシステムが準備されています。これはとても鋭敏なシステムで、ある意味「暴れん坊」な側面を持ちます。

わかりやすく簡略化してお話しすると、脳の一次ニューロンは、暴れん坊の脊髄の二次ニューロンの活性化を支配下に置いて、うまくコントロールしていると言えます。

脊髄のシステムをうまく利用することで、脳は自分では運動のプログラムにだけ専念すればいいのです。シンプルな作業は脊髄に任せておけばよいと言うことです。

一次ニューロンは、二次ニューロンを①沈静化し、②自分のやりたいよう運動をこなせるように支配しているのです。

たとえば、一次ニューロンが発達していない(脳が脊髄をきちんと支配下においていない)赤ん坊では、自動歩行反射、把握反射やバビンスキー反射が見られます。

これらは、脳が発達し一次ニューロンが脊髄を掌握していくに従い、消失していきます。

ところが脊髄小脳変性症では、一次ニューロンの道筋の途中で障害が起きることがあります。

すると、脊髄の二次ニューロンが勢いを取り戻し、勝手に活動を開始します。

ですから、痙性は脳卒中など、一次ニューロンに問題が起きる疾患でも重要なファクターとなります。

一次ニューロンが障害されると系統だった命令がこない上に、脊髄の力が増すのです。
これが痙性です。

痙性が増すとどうなるのでしょう。
脊髄には、筋肉からの情報を得て、筋肉の動きを調節するシンプルなシステムがあるとお話ししました。

これが暴走を始めるのです。
つまり、わずかな筋肉の刺激に反応して、筋肉が収縮してしまうようになる。

「つっぱる」と患者さんはおっしゃいます。
しかし、程度が進むと持続性のこむら返りや、貧乏揺すりのような動き(クローヌスといいます)が出てきてとても苦労することがあります。

痛みも伴う。

足の痙性が増してくると、尖足といい、常につま先立ちしているような状態で足首の関節が固定してきてしまいます。
足首をそらせル事ができないので、「足のおいでおいで」ができなくなります。
歩くときにアキレス腱が伸びないので、歩行時の大きな困難となります。

リハビリテーションで常に関節を動かしていかないと予防できません。
現在の医療では、救急医療を元に保険診療費が決定されているので、このような持続的にメインテナンスが必要な方のリハビリテーションを行っていくのは本当に苦しい。

私は、病棟や病院のシステムに何度も頭をさげ、患者さんのメインテナンスリハビリテーションを行ってきました。 でも、これはとても心苦しいさぎょうでした。病院側に赤字をお願いすることと同値なのがわかっているわけですから・・・

もともと、日本の医療のリハビリの中では難病のリハビリテーションは想定外でシステムがありません。

また、痙性のコントロールがうまくいかないと、「拘縮」といい、関節が固まってきてしまいます。

治療はどうすればよいでしょう。
内服薬に脊髄の暴走をなるべく抑える薬があり、それを内服していただくことになります。
あるいは筋肉が指令を受けても収縮しにくくなるお薬を使用することもあります。

ただ、薬が効きすぎてしまうと、今度は力が入りにくくなり(脱力といいます)、よけい運動障害が悪化してしまいます。

そこが難しい。
痙性が減る程度で脱力が出ない位のお薬の量・・・
一番悩ましい所です。

私は、マシャドヨセフ病という痙性が強いタイプの、遺伝性脊髄小脳変性症の患者さんに、バクロフェン髄腔内投与治療法(Intrathecal Baclofen Therapy ITB)を試みようとしたことがあります。

その患者さんの歩行障害は、小脳症状より、痙性による影響が強かったからです。
また、薬剤ではどうしてもコントロールが難しかった。

いい所まで進んだのですが、まだ治験段階ということもあり、実現できませんでしたが・・・

これはバクロフェンという脊髄の暴走をなだめる薬を、植え込み型ポートから持続的に脊髄に直接投与していくという画期的なシステムです。

お世話になっていた、東京女子医科大学脳外科、平孝臣先生にお願いし、いろいろ勉強させていただきました。こちらをご参照ください。

さて、このように脊髄小脳変性症の方の歩行障害は一つのファクターで起きるわけではありません。

私ども神経内科医「なぜ歩きにくいのか」と言うシンプルな訴えに一つずつ答えをだし、お薬を処方していくのです。

患者さんの症状とお薬の種類、量の選択、ほんとに根気のいる作業です。
あきらめずに一緒にやっていくしかありません。

つぎは、もう一つの歩きにくくなる原因、パーキンソニズムについておはなししましょう。

投稿:by ドクターレポリス 午前 09時29分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年9月17日 (土)

脊髄小脳変性症・フィードフォワード

小脳の働きの二つ目のお話です。

小脳には、反対の(相反した)運動を素早く行うという大切な働きがありました。
これが一つめ。

もう一つの大切な働き、それが距離の測定と無駄をなくす(フィードフォワード)です。

私たちは、机の上にあるコップを取って水を飲むとき(簡単に言いますと)、

机の上のコップの位置を見て、

手を伸ばし、

手を開き、

コップをつかみ、

口まで持ってきます。

この動作の間小脳はフル回転です。

まず手を伸ばして、きちんとコップの所に届くようにする。

一見簡単なようですが、体の位置や、コップの位置で、微妙に体の各パーツの動かし方が違います。コップの位置も全く違うでしょう。

一定の距離の場所に自分の体を移動させる。
その難しい仕事のキーワードになるのが、距離の予測とフィードフォワードです。

フィードバックと言う言葉は、既に起きた過去の出来事(運動)を振り返り、次の運動に修正を加えると言うことです。
でもそれでは、いくら小脳をフル回転しても、結局現在の運動に誤りが含まれる事になります。
動作も遅れたり、行き過ぎたり不足したりします。

いつまで経っても正しい動作ができません。

そのためには、現在の運動状況から、あらかじめ望むべき運動を予測し、修正を加え、現在の運動を最適化していく必要があります。
最適な動作を予想して運動することがどうしても必要なのです。

練習で自転車が乗れるようになるのも、サーフィンできるようになるのもこのフィードフォワード機能を鍛えて、素早く体をそれぞれの運動に最適化できるようになるからなのです。

人生を振り返ると、立ち上がって歩き始めたころから、小脳はフル回転を始めていたのです。

それが小脳のフィードフォワード機能なのです。
素早くなめらかに動作を行うためには、距離をうまく予測することと、自分の体に加えた力で体がどのように動くか予測していく必要があります。

イチローがヒットを量産できるのも、タイガーウッズがナイスショットできるのも、ナカタがミラクルシュートできるのも、フィードフォワードのおかげなのです。

バットやクラブ、足を動かし始めてから、その運動をフィードバックして修正していたら間に合いません。(実はフィードバック機能も働いているのですが、ここでは省きます。)

脊髄小脳変性症では、このフィードフォワード機能も障害されてきます。

あらかじめ最適な運動を予測して運動していくことが難しくなるため、

動作の行き過ぎや、素早く運動することができなくなります。

フィードフォワード機能が低下するため、ゆっくり動作し、体の状況を関知し、それを次の動作にフィードバックしなくてはなりません。

これは、大変な作業です。

この運動障害は立つ座る、歩くという粗大な運動から、お話しする、字を書くという細かな動作すべてに及びます。

これは、日常生活の大きな部分に影響を及ぼすことを意味します。

相反する運動が素早く行えなくなり、フィードフォワード機能も衰える。

歩くときには、重心の移動をあらかじめ関知して歩けなくなる上、右、左といった相反した動作も鈍くなるため、千鳥足のような歩き方になっていってしまいます。
こちらに脊髄小脳変性症ではありませんが、小脳症状を来したマウスの足跡があります。(ビタミンE単独欠乏性運動失調症の原因遺伝子α-tocopherol transfer protein (αTTP)の発見と発症機序の研究を参照)

しかも、つまずきやすい。
人間は歩くとき、微妙に倒れながら前に進んでいるのですが、それを素早く制御できなくなるからです。
ですから、予想しないところで転ぶ。
私たちがつまずくのとは全く機序(メカニズム)が違うのです。
とても危険です。

これが脊髄小脳変性症の小脳症状の最もつらい部分なのです。

リハビリテーションを行い、自分の動作の変化を知ってもらうことが大切です。
神経内科とリハビリテーションのユニットの意義は大きい。

小脳症状の調べ方については、また別の機会に。

実は、人の人生もフィードフォワードが必要ではないかと思っています。
最適な物を予測し実現していく。
見えない未来をきちんと予測し、的確に生きていく。

私の人生はフィードバックの方が多かったなあ。
小脳の方がずっと優れたシステムなのに黙って仕事しています。

これで、簡単でしたが、小脳症状の説明を一端終わりにします。

つぎは、誤嚥、物の飲み込みにくさの症状についてお話しします。
これは嚥下障害の結果起きてくるのですが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、脳梗塞などでも起きてくる、患者さんと神経内科医が最も頭を悩ませる症状の一つです。

胃瘻が必要になる場合も出てくるのです。
そのためのケアも。

投稿:by ドクターレポリス 午前 07時27分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年9月15日 (木)

遺伝性脊髄小脳変性症の論文

私どもの脊髄小脳変性症の論文が世界的ジャーナルに載りました。
neurology

みんな、ホッとしました。

Neurology. 2005 Aug 23;65(4):629-32. Related Articles, Links

A clinical, genetic, and neuropathologic study in a family with 16q-linked ADCA type III.

Owada K, Ishikawa K, Toru S, Ishida G, Gomyoda M, Tao O, Noguchi Y, Kitamura K, Kondo I, Noguchi E, Arinami T, Mizusawa H.

Department of Neurology and Neurological Science, Graduate School, Tokyo Medical and Dental University, 1-5-45 Yushima, Tokyo, Japan.

これはどんな話なのでしょう?

ウエブ上で公開されているアブストラクト(要約)を転載します。

Presented is the new kindred with autosomal dominant cerebellar ataxia linked to chromosome 16q22.1 (16q-ADCA type III) associated with progressive hearing loss. By haplotype analysis, the critical interval was slightly narrowed to three megabase regions between GATA01 and D16S3095. Neuropathologic study of 16q-ADCA type III demonstrated characteristic shrinkage of Purkinje cell bodies surrounded by synaptophysin-immunoreactive amorphous material containing calbindin- and ubiquitin-positive granules.

①16番染色体のある場所に遺伝子座を持つ、常染色体優性の脊髄小脳変性症を報告した。②この脊髄小脳変性症の病理所見は、シナプトフィジン陽性のアモルファスな物質に囲まれたプルキンエ細胞が特徴的であった。

ということです。
呪文のようですが、呪文ではありません。

一つずつ見ていくことにしましょう。

遺伝性の脊髄小脳変性症を調べることは大切なことです。

なぜなら、ある遺伝子に異常があり、病気が引き起こされるわけですから、その遺伝子の役割を調べることにより、脊髄小脳変性症の病気になっていくメカニズムの手がかりを得ることができます。

もしかすると、そのメカニズムは孤発性とよばれる、遺伝性でない脊髄小脳変性症の発症のメカニズムにも何らかの手がかりを与えてくれるかもしれません。

私どもは、家族性の脊髄小脳変性症の遺伝子がどこにあるかを調べ見つけました
これは膨大な遺伝子から調べていく大変な作業で、昼夜分かたず多くのかたが努力されました。

この作業をリンケージ解析といいます。
これが一つ目の大切な点。

次に、その遺伝子異常がある脊髄小脳変性症の病理所見を世界に先駆けて発表した。
それが、次に大切な点。

プルキンエ細胞は小脳にある大型の細胞で、小脳機能の中心的役割をする細胞です。

この、あたらしい二つの世界初の見解を持って、ジャーナルに掲載が許可されたわけです。

脊髄小脳変性症はなぜ発症するのか、なぜ進行するのか、薬は創れないのか。
私たち神経内科医はそのメカニズムの深淵から創薬まで、全力で努力しているのです。

脊髄小脳変性症の患者さん達は、治療法を待ち望んでいます。

また、ケアしてくれる医師を待ち望んでいます。

専門で見る神経内科医はあまりに少ない。

脳の中をCTで診ることができるようになって15年。
MRIが普及し始めて10年位です。
検査もできない、治療法もほとんど無い状態でしたので、専攻する医師は少なかった。

高齢社会に向けて、そして神経科学の進歩に向けて、特に日本では、内科医になるのなら、多くの医師はその需要の大きさから神経内科医になるべきです

私たちの社会や若い医師への情報発信は始まったばかりです。

色々な幸運が重なりジャーナルに載ったのでホッとしたのです。
うまくいかないことが多いものですから。

投稿:by ドクターレポリス 午後 02時30分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年9月14日 (水)

脊髄小脳変性症の呼吸障害

脊髄小脳変性症の患者さんは病状が進むと、呼吸状態が悪化することがあります。

今日、電話で急ぎの問い合わせをいただきました。

「先生! 在宅で診ていた脊髄小脳変性症の患者さん、呼吸状態悪化したの。どうしたらいい?」

病状をお聞きすると、肺炎とか、喘息とかではなく、病状が悪化し、脊髄小脳変性症のそのものからくる呼吸障害のようでした。

「とりあえず入院する場所を探して、入院して頂きましょう。」

「分かりました。病院、探します。一過性のものでしょうか?」

「もし、原病(元々の病気という意味)からくるものであれば、呼吸障害は長期にわたるかもしれないです。ですから、呼吸器をはずせても、気管切開管理などは必要になるかもしれません。」

「入院して調べます!」

というところで電話切れました。
先日、大雨で停電したときの話をしました。

本当に神経内科系の在宅の患者さんはバックベッドが必要です。
そして、信頼できる医者。コメディカルの方々。

朝から考えてしまいました。

投稿:by ドクターレポリス 午前 10時06分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年9月12日 (月)

脊髄小脳変性症の症状

脊髄小脳変性症の初発症状(病気の初期に見られる症状)について、学生さんからお問い合わせがあったので、今日はそれについて書いてみます。

前回前々回と幾つかの特徴について書いてきました。
その中核(中心となる)症状は“小脳”の症状でした。

それでは、小脳 は何をしているのでしょうか?

人の脳の仕組みは複雑です。

ですので、簡単におはなしすることにしましょう。

物を考えたり、動作を指示したり、いろいろなコントロールセンターである“大脳”にくらべ、小脳は小さく、大脳の後ろの下の方に位置します。

その大切な役割は、割り切ってお話しすると二つです。

1.動作をなめらかにして、反対の動作を素早くすること
2.距離を予測し、動作の無駄をなくすこと 

の二点です。
これは、私がかってに抽出した二点ですが、どの患者さん方にもわかりやすい説明なので、ご紹介します。

私たちの動作は、反対の動作の連続です。

たとえば、きれいな音楽を聴いて拍手したとしましょう。
手を開いて、ぶつけて、その瞬間にまた開いて、たたきます。

歩いているときはどうでしょう。
右足をついているときには重心は右に、左足の時には左に、体の筋肉は相反して働いています。
これらの、反対(そう反する)の動作をなめらかにするのが小脳の働きです。

お話をするときの下やのどの筋肉も、やはり素早い時間にそう反する運動をしています。
口を開けたり閉めたり、舌を上に上げたり下げたり、息を止めたり、だしたり、その連続でしょう。

ですから、小脳が障害されると、
うまく拍手や、手を振ったりすることができなくなり、“ぶきっちょ”になります。
また、歩くときには左右に揺れてしまい、“酔っぱらい”の歩き方になってしまいます。
お話をするときも、ろれつが回らなく、声の大小が大きくなり、“爆裂型”の会話となります。小さな声で話していたと思うと、急に声が大きくなってしまうのです。

これらは、相反する運動の制御がうまくいかないために起きる物なのです。

今のところは、根治療法がないので、リハビリテーションを行っていくことになります。

さて、文章が長くなってきましたので、二点目の運動の予測についての症状については、次回にしましょう。

脊髄小脳変性症はいろいろな面で、社会保障などを受けていく必要があるため、脊髄小脳変性症友の会を形成しております。

私もずっと会員です。応援のほどお願い申し上げます。

投稿:by ドクターレポリス 午前 09時45分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年9月11日 (日)

脊髄小脳変性症(SCD/SCA)の分類

脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration: SCD / spinocerebellar atrophy: SCA)は、やっかいな病気です。

沢山の患者さんを拝見してきましたが、あせらず、やっかいな症状とずっと一緒に戦って行かなくてはなりません。

今回は、簡単に脊髄小脳変性症の分類についておはなし致します。

私の教授が監修されましたパンフレットから引用しております。(SCDサマリー全5冊、金沢一郎東京大学教授 監修、水澤英洋 東京医科歯科大学教授 編集)

先日、脊髄小脳変性症は、小脳の症状を中心に、脊髄にも病変が及ぶとのお話をいたしました。SCDkaibou



小脳と、脊髄
は横から見るとこのような位置関係にあります。  

 

SCDbunrui

 

                                                             

まず、遺伝性(ご家族に同病の方がいらっしゃる)か非遺伝性かに分けられます。非遺伝性で、その方だけの発症の場合、“孤発性”とよびます。

                                    
遺伝性のものには、図のピンク色の部分に示されたように、遺伝情報が特定されたものも多く、SCA#(#には番号が入ります)と分類されてきてます。

大切なことは、小脳だけの症状にとどまるのなら、運動機能に影響がおよぶだけなのですが、多くの場合他の症状も合併してきます。

小脳症状だけでも大変に苦労するのですが、脊髄小脳変性症には、小脳症状だけでなく、数多くの合併症を来す方もいらっしゃいます。

自立神経症状や、その他のシステムにも障害が起きると、本当にやっかいです。

例えば、シャイドレージャー症候群(Shy-Drager syndrome)という脊髄小脳変性症の方は、強烈な自立神経症状から、立ち上がると血圧が120/90mmHg位から一気に60/ー(ーは計測不能ということです)まで降下してしまう人がいます。

立ち上がると、気を失ってしまうことが頻回に起きてきます。

こうなってくると、ふらつかなくても立ち上がることが難しくなってしまいます。

自立神経症状については、“自律神経”が何かをお話ししなくてはならないので、次回に引き継ぐことにしましょう。

SCDcover


本日の情報は、
(上記のこの表紙のパンフレットからご許可をいただいた上で、
引用致しました。
神経内科のいる病院なら置いてあると思います。
新松戸の近くであれば、10月以降、大和田医院までいらして頂ければ、お渡しできます。)

投稿:by ドクターレポリス 午前 11時12分 in 07.脊髄小脳変性症
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2005年9月 7日 (水)

脊髄小脳変性症 (SCD/SCA)

『脊髄小脳変性症』は一見、難しい名前に見えます。でも、分解すると、脊髄、小脳、変性、症に分けられます。

神経系の病気には、原因ははっきりしませんが、特定の部分の神経細胞が傷んで行ってしまう病気があります。

小脳を中心とし、脊髄にも障害(変性)が及ぶものが脊髄小脳変性症なのです。
そして、脊髄小脳変性症は神経内科医が診るべき疾患の一つです。

脊髄小脳変性症には幾つかタイプがあります。

昔は、臨床症状から分類されていました。また、病理的な分類もありました。

近年になり、MRIにより脳の様子が分かるようになり、さらに、遺伝子検査も行えるようになりました。

その結果、脊髄小脳変性症は再分類されることになりました。
小脳は体のバランスをとる中枢ですが、脊髄小脳変性症では、小脳が障害されるため、歩くとふらつくという事で気がつかれる事が多いです。

小脳の障害だけか、その他の神経系のシステムも障害を受けているかなどで、分類されているのです。

また、ケアするに当たっては在宅医療の知識も必要で、包括的に色々なことをケアできる神経内科医の増加が待たれています。

今後、脊髄小脳変性症について、詳しく触れていくことにします。

投稿:by ドクターレポリス 午前 11時38分 in 07.脊髄小脳変性症
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