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2005年10月 8日 (土)

栄養経路と誤嚥

脊髄小脳変性症の患者さんで、食べ物がうまく食べれなくなるお話を先日しました。

起こしてくるのが「誤嚥」というトラブルです。

誤嚥とはあまり聞きなれない言葉です。


私たちののどは大変に巧妙な仕組みで、空気を吸って肺に送る経路と、食べ物を胃に送る経路を分けています。

空気を飲み込んで胃に入ってしまってもなんら問題はありませんが、
食べ物が肺に入ると大変なことになります。

肺は大変に繊細な組織です。

薄い膜で空気と細かな血管が接していて、体の中にたまった二酸化炭素を外に排出し、酸素を体に取り込む作業を常時行っている組織です。

食べ物は数日間食べなくても大丈夫ですが、呼吸は数分とまってしまうだけで重篤な状況に陥る、大変に重要な作業です。

食べ物がこの肺の組織に入り込んでしまうのが誤嚥なのです。

ふつう、気管という空気の通り道に食べ物が入ってくると、咳反射がおきて、人は激しく咳き込みます。

ところがこういった反射は脳幹部に中枢があります。

脳幹部の障害も起きてくる脊髄小脳変性症では、反射も衰えてきます。

飲み込みのところでの選別がうまくいかない上に、咳反射も衰える・・・
こういった複合的な障害により誤嚥が起きてくるのです。

間違って入ってきたものが少量の場合は、肺に居るお掃除細胞が分解し、吸収あるいは、痰として排泄します。

ところが、迷い込んだ食べ物の量が多くなると肺炎を起こしてしまいます。

ピーナッツなどの豆油脂が肺に重篤な炎症を起こすことはよく知られています。

ピーナッツのように食べ物はそれ自身が炎症を惹起し、また、肺の中では気体でない異物ですので、物理的に障害をきたします。

また、口の中や食べ物に含まれるばい菌も肺に落とし込むことになります。

こういった、空気から隔絶されたばい菌と食べ物の塊を肺は処理することが難しいのです。

ですから、肺の組織にばい菌が取り付いておきてくる通常の肺炎に比べて、誤嚥による肺炎(誤嚥性肺炎)は重篤になりやすい。

食べものの形態を変えたり、体位を整えたりして、誤嚥を防ぐ工夫をしなくてはならないわけですが、それでもどうしても飲み込みが難しくなってきたときには、代替の方法を探っていくことになります。

早めに手を打つことが、命を救うことにもなります。

脊髄小脳変性症と別の飲み込みが悪くなる病気の方が、一時の療養目的に入院されたとき、誤嚥の兆候がありました。

よくお聞きすると、やはり、誤嚥がすでにおきつつあることがわかり、窒息寸前になっていたこともわかりました。

もともと診られていた慶応大学と相談し、何回も電話連絡を行い早めに転院。
慶応大学医学部神経内科教室の対応は大変に迅速でした。

私どもの情報を得ていた彼らは、経口の食事からチューブ栄養に直ぐに栄養補給経路を変えてひとつの命が救われました。

肺炎を起こしてしまうと、よくなるまで、次の手が打ちにくくなってしまう。

時期を逃さず、代替経路に切り替えていく必要があるのです。

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