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2005年11月 6日 (日)

小脳に障害があるかどうかの確かめ方

SCDkatana

これは、私が以前、神経内科の絵本を作成したときに、脊髄小脳変性症の章のために描いた絵です。
患者さんが、「ゆらゆら左右に揺れて、刀を持っていたら、地面に突き刺して、体のゆれを止めたい」とおっしゃった発言を絵にしたものです。

波の上に浮かぶ天秤に刀を背負ったウサギが立っています。
天秤には、小脳のマークをつけました。

「月日が経っていくのが恐い。また、次の月が明けるのがいやになる。」
とおっしゃっていた情景を後ろの月で表現しました。

この絵はとても評判が良く、いろいろな脊髄小脳変性症の患者様にプリントして差し上げていました。

背中には刀。
患者様のゆれを止めたいという願いと、これからの症状の進展がもしあっても、守ってもらえるようにという願いをこめたものです。

ところで、小脳の調子が悪いかどうかはどうやって調べるのでしょうか?

私たち神経内科医は、体に張り巡らされている神経システムを系統だって診察する訓練を受けています。

顔に行く神経、手足の運動神経、感覚神経・・・

そして、小脳の調子も調べます。

小脳の機能はフィードフォワードと、動作を滑らかにすることであるということは以前お描きしました。

それを手、足、体、歩き方などで調べるのです。

手では指鼻試験といい、人差し指で鼻の頭を正確に触ってもらうのです。
もちろん眼を開けた状態で良いのですが、小脳に障害があると、まっすぐスーッと触れることができなくなります。
カクカクした動きになってしまいます。
そして、無事に鼻の頭に到着できない。
動作の滑らかさが失われ、フィードフォワードが働かず、違うところを指差してしまうのです。

足では、同様のことを ひざかかと試験ということで調べます。
かかとで、反対側のひざをトントントンと数回タップしてもらい、すねの上を滑らせてもらうのです。
小脳に障害があると、かかとをひざに正確に着地させることが難しくなり、すねの上を滑らせるときにカクカクした動きとなってしまいます。

小脳の症状は、歩いてもらうときにもっともはっきりすることがあります。

私たちは二足歩行をしていますが、その際、重心は常に移動しています。

アシモというロボが二足歩行を可能にしたとき、人々は驚きました。
開発者が、「転ばないようにと開発していたときはうまくいかなかった。常に転びかけるという動作の連続として歩行を考えたら、うまくいった。」という発言はとても興味深いものです。
こちらに、歩行時の重心の移動の図が載っています。

人間は小脳が大変に速いスピードで演算を繰り返し、歩行することができるのです。

小脳のつくりは独特で、同じ演算回路が無数に並列されている構造をとっています。
すごく早いCPUが一個あるのではなく、ある程度のスピードを持った演算システムを並列で動かしているのです。
これは、実は最新のスーパーコンピュータと同じ構造であることがわかってきました。
場所により、システムが全く異なる大脳とは全く違う構造をとっています。
この辺の話もとても面白いのですが、次回にしましょう。

微妙に体の筋肉を伸び縮みさせ、重心を適切なところに配置しているのです。

小脳が障害をうけると、この演算スピードが落ちてしまいます。

すると、重心の移動幅が大きくなってしまい、ゆらゆらした歩行になってしまいます。

このゆれに耐えて、転ばないようにするためには、足を左右に広げる必要があります。
ですから、小脳に障害が起きると、wide based gaitという、足を左右に広げた独特の歩行になります。

この辺は、酔っ払いのような歩き方 とも表現されることもありますが、酔っ払いの千鳥足とは少し違う、小脳の障害による独特の歩き方になります。

私たちは、このような症状があるかどうか、どういったときに現れるのか、他の神経症状との関連などから、神経系の異常が何者であるか、判断していくのです。

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