医療費抑制の功罪/医師の激務
ありのままを見ていただくだけでよいと思っています。
多くの方々は医師が余裕のある生活を送っていると思われていると思います。
日本には、そのような過去の実態もあったかもしれません。
現在の実情はかけ離れてきています。
こちらに、若い医師たちのすさまじい労働実態の一部が紹介されています。
私たちも、大学病院や救急病院時代、たぶん、週100時間を越えていました。診療後にカンファランスや、実験の指導も行っていたときには、さらにもっと長かったかもしれません。
当直をすれば、40時間(24時間プラス翌日16時間)以上の連続労働もざらでした。
多くの医師は、そのような状況に陥っています。
このような状況におかれて、ミスなく、優しい人間であり続けるというのは至難の技です。
医療費削減による、看護師、医師数の制限とも考えられます。
日本では今後、医療機関にかからなくてはならない人口が増加していきます。
医療システムの効率化を図りながら、一定額の医療費の増額はやむを得ないのではないでしょうか。
パラパラと私の友人たちが、必要とされているシステムから、木の葉が散るように去っていってしまいました。
激務から来る疲労が直接の原因です。
さらにそのように働いても悲しくなる現実が待っています。
私たちの神経内科の専門医も行う、脳を循環する脳脊髄液という水を腰から慎重に採取する手技は、手技、道具、消毒薬、診断料を含めて1400円という値段です。
これを、3割負担であれば、患者さんから420円、保険機構から980円いただいて医療機関の総収入になります。
総額でもランチより安い。
そして、これは、駅前の美容外科では眉毛や腋毛を一本抜く料金にもなりません。
医師に自分の脳脊髄液採取を420円で依頼しているようなものです。
手技を誤れば後遺症を残すかも知れない検査に、現在の保健医療では、この程度の金額しか許されていません。
それでは、呼吸が止まったときに、救急救命のために気管にチューブを差し込む気管内挿管はチューブ代など全てを含めて幾らでしょう?
僅か、4000円です。CD一枚の値段とほぼ同じで、DVDより安いのです。これは、手技代ではありません。全てを含めた値段です。
先日、ツタヤで親のために演歌のCDを借りて、支払いが4200円だった時にはこの値段を思い出し、めまいがしてしまいました。
しかも、ツタヤは全額、外税の自己負担です。
患者様の命を守るために一刻を争って、医師が命がけで行う処置がこの値段なのです。
あとは押して知るべき値段です。これらは、診療報酬点数というもので規定されて公開されていますので、どの処置でも調べることができます。
保険医療機関であれば、全国、どの医療機関でも同じ金額です。
気管内挿管が急ぎで上手に行えるためには沢山の経験や訓練が必要です。
日本の保険医療制度の値段は非常に算定が厳しい。
医療機関はこれだけの収入しかないので、雇う医師数や看護師数を最低限の人数に設定します。
大きな病院で、外来で数時間も待たされるのは当然の帰結なのです。
外来医師が病棟の急変で呼ばれてブースから居なくなっても、バックアップできる人数がいません。
患者さんは無人のブースを待ち続けなくてはなりません。
そのため、沢山のスタッフを雇い、良質な医療を提供しようとする病院の倒産や閉鎖も続いています。
あるいは、やむなく、患者さんからさまざまな雑費をいただかなくてはならない状態に陥りつつあります。
来年からは、入院の食費も実費になるかもしれません。
医療費の抑制には限界があるのです。
どの世界でもそれ以上安くすると、質の違うものになってしまうということは良く経験される事です。
羽毛布団だと思っていたら、半分、アクリルだったと言うような事です。
その値段では実現できないことがあるのです。
その結果、このままではやっていけないということで、アメリカ並みの実費診療に日本の医療は進んでいます。
そうなると、どうなるでしょう。
転んでしまい、夜間エックス線をとり、専門医の診断を受けると、10-20万円かかります。
さらに、ここに、救急車代が加算されます。
もちろん、救命救急となれば、百数十万から数百万は必要です。
命に引き換えにできないと、国民健康保険の他に、自己加入の保険に入らなくてはならない世の中になるかもしれません。
これが、混合診療の行き着く先の結果です。
現状では、良い先生が必要な病院から、みんな辞めて行ってしまいます。
必要とされている、つまり仕事の多い科を若い医師は避けてしまうため、人手不足に拍車がかかります。
私は、このような状況にならないように、医師もミスを犯さないでよい程度の、普通の休息がいただけるようにならないかと願っています。
国民の負担が増えず、良質な医療が受けられるシステムを皆で考えていかなくてはいけないと思っています。
先日会った、机に突っ伏して寝込んでいた、疲労困憊した後輩の若い先生の姿を思い出し、今日は少し、彼らの弁護をさせてもらいました。
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