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2006年4月15日 (土)

産科医療の既になされた選択

本日のスーパーモーニングという番組で、産科の先生が減って、お産に苦労しているという特集が組まれていました。

神奈川でも、埼玉でもお産をするのが大変になっているというのです。

ある一定の危険を必ずはらむ、お産に携わる現場の医師を逮捕した司法と、建築的な報道をしてこなかったマスコミによる帰結が 予想以上のスピードでお産の医療を崩壊させました。

そして、崩壊したままか、再構築されるかは非常に難しい岐路に立っています。

でも、何かを選択してしまったのです。

お産はもともと命がけの作業です。

『生理的なもので安全なものである』というコメントをした方がいらっしゃいましたが、まったく理解されおらず本当に唖然としました。

日本では非常に優秀な産科技術と衛生状況のため、お産は危険が少ない生理的なものと捉えられやすいのですが、どんなに正常に思える分娩でも、母子ともに命がけの行為なのです。

それまで、子宮にしっかりくっついていた胎盤は、生物の不思議なメカニズムの元に、出血を最小限にしながら、引き剥がされるのです。

例えば、弛緩出血というのは正常分娩でも常に付きまとうものです。

どんなに手を尽くして、努力しても救えない事がある。

大出血が始まってしまうと、あっという間に人の命は失われてしまう。

だから、お母さんや、子供たちの命や存在はとてもかけがえの無いものなのです。
お母さんは命をかけて子供を生み、子供は命をかけて世の中に生れ落ちてきた。

そして、毎日毎日、一生懸命、自分の命を削って産科医療に携わってきた産科医たち。

それを司法とマスコミがミスリードしました。

その報道を見て、国民は『おきうるすべてのリスクに準備した上でお産に望むのが当然だろう』と思いました。

当然です。

普通の個人医院や、中規模病院ではムリな話です。

何かあった時に応援を頼むという態勢では、逮捕されてしまう。

今回の番組では、お産できる病院の急激な減少が報道されていました。
これも至極当然の事でしょう。

そして、どんなときにも対応できる病院でのみお産をするというシステム再構築されていきつつあるのです。

ただ、その変化が急激で、受け入れ側の大病院も整っていません。

合併症のある妊婦さんは、少数のセンターや大学病院などでお産をすることになっていくでしょう。

そして、そこに産科医を集めて、睡眠時間を確保された人間らしい生活を保障した上で、働いていってもらうしかない。

コメンテーターの方が、『医師は厳かなお産に携わる医療行為は、どんなに苦労しても引き受けるべきだ。努力や心意気が不足している。』という趣旨の発言をされていましたが、この発言には到底なっとくできません。

こういった発言は現場の実情を知らない男性の単なる『感想』です。

そして、こういったコメントは、お産や女性の尊厳そのものに触れてこなかった男性に良く見られるものです。

女性に全く優しくない。
彼は抽象的にしか、お産や産科医療を捉える事しかできない。
具体的にきちんと踏み込んだ理解をする気持ちがないと思います。
だから、女性に優しい人ではないと思います。

この発言は、『厳かなもの』といった、具体性を欠く抽象的な言葉でお産を総括し、妊婦さんをも攻撃する問題のあるものだと思います。

もちろん、現場で何十時間も連続で働いている産科医に後ろから弾を撃つようなものです。

また、複雑な思いで、産科医になる事を断念した若い医師にも大変に失礼なものです。

彼女は、『現状の産科医のシステムでは、医師の疲弊により、患者さんが望む医療をし続ける勇気が無いとはっきり言っていました。

誠実な気持ちを打ち砕く現実を作り出してきた人々に問題があるのです。
心意気ではないし、ましてや収入の話でもない。

年収数千万円を呈示しても産科医が集まらないのはなぜでしょう?
金額が不足しているのではないのです。

コメンテーターの橋本弁護士さんは非常に的を得た発言をしていました。
すばらしい。みなおしました。

1.自分の目にする産科の先生はどう見ても疲弊している。
2.その中でも産科医は誠実に医療を行っている。
3.医師は裕福との印象があるが、少数の理事などのオーナー医師が裕福なだけであり、現場の医師は生活するのにも苦労する収入しかない。

彼は、非常に的確に現在の現場を把握していると思います。
医師の格差社会の広がりについては機会がある時に触れようと思います。

橋本弁護士は、見たものを分析する能力に長けていると思いました。

子供を出産する現場の年齢である彼のコメントは、現場から遊離ししてしまった高齢コメンテーターのコメントのむなしさをさらに浮き立たせていました。

妊婦さんには何の罪もありません。

ただ、産科医療だけでなく、医療者を追い詰めてしまったところに問題があります。

医療事故には、医師の明らかな技量不足や隠蔽によるものと、病からくるどんな医師や医療機関でも避けられないものがあります。

マスコミは、両者を混同して医師を追い詰めている。

そのため、保険診療医から、混合診療や自費診療医へとシフトし始めている。

患者さんの負担を増やさなくては、良い医療が受けられないという事です。

心意気のある地元密着型の診療から、センター化などの集中へと圧力がかかっている。

放置されている現状をみると、これらは、もしかしたら、政策的なものかもしれません。
そして、その先もあるでしょう。

この流れは加速しています。

リスクを減らすという事を最優先項目にするのなら、産科医療と小児医療のセンターへの集中は国民の選択かもしれません。

医療機関の再編が急速に進んでいるのです。

でもビジョンが無く、なし崩し的に進んでいます。

こんなに生みにくいのでは、さらに少子化も加速します。

少子化のスピードが徐々に衰え、一定の適切な人数になるという人口政策のソフトランディングに失敗する可能性が高くなりつつあります。

残念ながら、そこまで切り込んだコメンテーターさんは一人もいませんでした。

一方、製作スタッフは良く考え、非常に丁寧に番組を作られたと感じました。

良くぞ、選択を迷った良質な若い医師と指導医を見つけて、両者からコメントを頂いてきました。大変だったと思います。

様々な立場の産婦人科教授の意見もインタビューしていました。

本質に迫れないコメンテーターの番組というのは寂しさだけが残ります。
番組制作スタッフも心残りだったでしょう。

コメンテーターの不出来のために、本質にせまることなく、「嘆き」に終始したのは残念です。

これでは、視聴者の不安をあおるだけで終わってしまっています。

あるいは、「崇高な『お産というもののために、逮捕を恐れず、寝ないで過労死する事をいとわず、低給でも満足する産婦人科医を目指す」志の高い人が医療界に少ないと嘆いて終わってしまっています。

あーあ。

コメンテーターによって良質な題材も無駄になる良い例でした。
橋本さんには多少救われましたが。

製作者は気を落とさず、今後も良い番組を作り続けてもらいたいものです。

そういった困った事が起きているという事を知らせるだけでも意味があったかもしれないですが不憫です。

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