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2006年8月24日 (木)

未来の見えない無資格産科の報道

本当は、グッドデザインプレゼンテーション、GDP2006の楽しい報告を書きたかったのですが、あまりに悲しく、久々にとても辛かったのでこちらを書きます。

私は、現在のインフラを保ちながら、未来を構築していく事がとても大切だと思っています。

神奈川の堀病院における、無資格の方の診察妊婦さんの医療事故という、全く関係の無い報道があたかも関連あるように報道されました。(キャッシュファイル)

よく読めば、
①助産婦でない看護師さんが妊婦さんの状態を見ることもあった。
②不幸にして出産による事故が3年前にあった。


ということです。

ところが、この報道をいっぺん通読すると、「無資格者が診察したから医療事故が起きた
」というように読めます。

そして、
「テレビでもよく取り上げられ、出産数も多いのでこの病院を選んだ。資格のない看護師などが助産行為をしていたとしたら、何かあった時に対応できないのでは」と不安げな表情を見せていた。 
という、極めて不正確な一般市民の不安の声で終わっています。

なぜなら、内科の入院患者さんは、看護師さんが診ていて、院内のどこかに医師がいるシステムをとっています。
産科も同じ事であって、なんら不思議は無いからです。

入院したのに、最初から最後まで無資格者だけが対応すると言う事は、どう考えてもありえません。

これは、報道を〆る能力に欠けている記者さんが良くやる手段です。
 

この報道のポイントは、関連の無い二つの事象を(故意に?)分けないで記載していること。

そして、3年前 と書かずに2003年と書いていること。

この病院だけが本当に特別な事をしていたのか否かと言うこと。

この病院では、年間3000人、3年間で約一万人の赤ちゃんが無事誕生しているわけです。

今年だけでも、2000人近くが無事に生まれています。

そして、出産現場には、医師が必ず立ち会っていると院長は明言しています。

つまり、出産までの様子観察を看護師さんがやっていたと言うだけに過ぎません。

突然の破水で、病院に駆け込むよりずっとケアされていた事でしょう。

記事と言うのは、本当に記載が大切です。

落ち着いて読んでみると、法的な問題は別として、お産をこの病院で続けてもよい、と言う報道に私には見えます。

日本中に従来から同様のシステムをとってきた病院もあるでしょう。

そして問題なく子供が生まれている。

もしかすると、医療法の方が現実的でなく、不備があることに問題があるのかもしれない。

実は、この問題は、医療者なら、グレーゾーンとして運用されてきた事を皆知っているのです。

そして、現実的でない法であったため、現場では様々な解釈がなされてきました。

そういった多角的な視点が全く欠けています。

現に何万人もの赤ちゃんがここで無事に生まれているのですから。

今では誰も触れない、因果関係の明らかでないガスターによる死亡例の報道を思い出します。

今では、あんなに騒がれた薬剤なのに、頑強に薬の変更を繰り返し訴えられたのに、コマーシャルに流れ、薬局で医師の処方なしに皆さんが購入するようになりました。

また、「病院内で患者が不審死」と言う見出しの誤報もつい最近のことでした。

赤ちゃんの数を見ると、地域の産科医療を支えてきた中核病院に違いありません。

崩壊させる事なく、守り、改善してもらっていくと言う、前向きの世論が生まれる事を望みます。

日本が今後発展するためにも、子供さんが沢山生まれていく必要があります。

社会保障人口問題研究所の方とも良くお話したのですが、人口減少にソフトランディングはありません。

このまま少し減って、丁度いいところで止まる と言う事はありえないのです。

どこかで夫婦から二人以上の子供が生まれていくという環境が必要なのです。

赤ちゃんがきちんと生まれるシステムの再構築のビジョンも無く、崩壊の引き金だけを引き続ける報道に、とても深い失望と悲しみを感じます。

助産師数が少ないと、本当に事故が増えるのでしょうか?

すぐに保健師になってしまって、出産に立ち会うことが極端に少ない助産師さんもいらっしゃるのです。

そもそも、法律的には医師が指示を出し、看護師さんが内診をすることは違法ではない。

医療事故は偶発的で、両方足しても何の事件性も違法性も無いかもしれない。

かつて、「内診というから混乱していけないんだ。経腟的に体外から触診するだけだから、患者さんに針を刺して、採血したり静脈注射すら行える)看護師さんがそれよりもずっと安全な腟内検査を行い、その情報に基づいて診断は医師がする。と言えばグレーゾーンは無くなるな。言葉の問題だけだよ。」と笑われていた産科の先生がいらっしゃいました。

実態はそのようなものだった可能性があります。

例えば、日野原先生の本では、医師が少ないときには、先生が十分でないスタッフの中、一人で何十人も受け持たれ、きちんとした治療を行っていた時代の事が書かれています。

数ではなく、システムなのです。

私であれば、次の文を加え、記事を〆めるでしょう。

「今回の医療事故については原因究明を進める事は必須である。しかしながら、安全なお産が行われている様々な産院で助産婦数にばらつきが多く、今後実態調査が必要だろう。(記者名)」

もっと詳しく書くとすれば、

「同院では無事数万人の出産をこなしてきており、地域の産科医療のためにも改善し機能していく事が求められる。医療事故の問題とは別に、今後、安全な出産にどれだけ有資格者がかかわっていく必要か否か、圧倒的に不足している実働している助産師数や全国における無資格者の出産にかかわる実態の調査も含め、議論を深める必要があるだろう。(記者名)」

一般市民の言葉を利用して、自分の意見を代弁するような書き方は、この考察不足を示していると思います。

こちらの記事をご覧ください(キャッシュファイル)。

面識はありませんが、読売新聞生活情報部・榊原智子、森谷直子記者さんの考察はより鋭い事が解るでしょう。

この記事を読んで、私は本当に救われました。

短い文章で、良くここまでまとめた。

助産行為との因果関係はわかっていない ときちんと明記しています。

前記事では、「無資格者」と断罪されている看護師さんを出産のエキスパートに育てようという機運があることにも触れられています。

そして、助産師さんの偏在や、別の記事では地域産科医療にこの病院が必要である事にも触れられています。

記者さんの力量で、こんなにも記事が違うのです。

最初の記事を書いた記者さんは、次の記事を書いた女性記者さん達に教えを請う必要があります。

正確なデータも載せていて、感情論ではない。

最初の記事がどれくらい不正確で感情的な記事で、誤った印象を与えるものかこの二つの記事を読み比べるとわかります。



経済的インセンティブが崩壊した保険診療下では、親切で、より良い医療を行いたいという社会的義務で働く医療者の方が圧倒的多数です。

不安になる必要はありません。

良く見て、落ち着いて自分で多角的に判断すればよいのです。

この記事を書くということは、助産師が完備された病院とそうでない病院の二つがあると述べているわけで、是非、最初の記事を書いた報道機関に助産師さんが完備された病院を見分けて紹介してもらうと良いでしょう。

(追記:こちら(http://tyama7.blog.ocn.ne.jp/obgyn/2006/08/post_2d85.html)に産科専門医さんのご意見があります。産科医療システムを護る大切さと、実情、ひいてはお産とはなにか、考えさせられます。また、昨日知り合いの看護師さんにお聞きしたところ、複数の方からほとんど常勤助産師さんがいない産科医院さんがあったとのお話を御伺いしました。しかし、通達違反とされてしまうので、表には出てこないようです。助産師さんの関与が薄かったという事は、私も決して良いこととは思いませんが、運用上、決して特別な出来事では無い事も明記しておきます。助産師さんの偏在から、地域の産科医療を支えるため、事故は起こってこなかったので、監督側も黙認してきた面も否定できないのです。ですから、厳密に法を適応したいなら、産科医療が回るシステムを構築しなおしながら行かないと、ダメージだけが先行してしまう点に危険があります。そういった意味でも、文頭の報道がどれだけ世の中に不安を与える事だけを目的で書かれた、無責任で不勉強なものか解るでしょう。現在、病院や診療所の現場でがんばっている助産師さん、看護師さん、産科の先生方の産科医療が崩壊してしまうことだけは、妊婦さんが右往左往して悲しい思いを今も、そして未来も 安心してスタッフの良心により成り立つ産科医院さんや病院で赤ちゃんが生めるためにも、絶対に避けなくてはいけません。8月26日)

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04.栄養運動医療アドバイザー / 医療コラムニスト」カテゴリの記事

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