価格に感じる感覚
『必ずジェネリックにしてくださいね』とおっしゃる、ブランド物が好きな50台後半の患者さんがいらっしゃいました。
彼女は糖尿病で、薬を欠くことができません。
院外処方の『ジェネリックに変更可能』の印を押し忘れただけで、もう一度ブースに戻られ、とても怒られてしまった事がありました。
もちろん、こちらの落ち度なので、平謝りです。
院外処方箋には上部に普通の印を押すところがあるので、うっかり、チェックだけして印を忘れてしまうのです。
『いやあ、うっかりしました。申し訳ございません。でも、いったいどれくらい御値段違うんですか?』
『そうですねぇ、2千円と言ったところです。』
『それは大きいですね。』
『そうですよ、この金額差が大きいんです!ちょっとぐらいむかつきが多くっても、錠剤が大きくっても、関係ないもの。大切なのは金額差。先生、いらない薬出したら怒るからね。最小限のお薬で結構。先生がしつこく言わなければ、飲みたくないぐらいだわ。』
その日は、強い剣幕だったので、しばらく私はうなずいてお話を伺っていました。
ある日、外来にやってきた彼女はどこと無く違う雰囲気でした。
『お化粧変えたんですか?』
『いいえ、違います、先生。プチ整形したんです!
両目で38万円。先生がいつもジェネリック出してくれたお陰よ。』
私は、とても複雑な気持ちになりました。
同時にいろいろなことが頭を巡ります。
マクロ的な見地からは、保険診療費から自費診療圏へ資産が流れていると言う事。
外科や皮膚科や形成外科の保険診療の先生が、美容外科さんに鞍替えするという人材の流出も続いています。
また、数十万ぐらいなら、ポンと買えるという日本の経済力。
私は、『糖尿病の治療や管理あっての美しさなのになぁ』とも思いました。
でも、どのようにお金を使っても、その方々の自由です。
人と言うのは、物に対して様々な価値観を抱くものです。
専門的知識のアドバイスや、味も素っ気もない外観のお薬より、女性にとって、自分の美貌の方がはるかに高額を支払って満足すると言うのも頷ける話です。
若者の、体に大切な食事をカップ麺やファーストフードなどに節約して、携帯代にすることも、否定する事はできません。
若いうちにしなくてはいけない事は、本当はスローフードを食べて、体に良い味を見分ける舌作りをして、良い赤ちゃんを産んだり、メタボリック疾患を予防する基礎を作る事が大切なのですが・・・
一方で、保険診療なくしては治療が継続できない方々も沢山いらっしゃいます。
本当に考えさせられた出来事でした。
(今回は内容をお伝えするために、設定を完全に変えています。ご了承ください。)
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