IP20との出会い

IP20さんとの出会いを思い出しています。

それは、熱い夏の夕方でした。青山病院から表参道へてくてく歩いていきました。
背中のディバックには一枚の図面。
小さなビルの一室を描いた、手書きの図面でした。

大体の大きさをフリーハンドで描いた粗末な物です。
それが私の手にある全てでした。
計画も立てられないから、銀行の方とも相談できずお金もなく、コンサルタントさんにも相談できず、患者さんのニーズから描き起こした頭の中の設計図以外、本当に何も無かった。

きちんとした調査はなされていないのでよくわからないのですが、最小限の内科系ユニットをこの大きさに納めたのは初めてだと思います。

どのコンサルタントさんも、私のコンセプト自体を否定する事が多く、悲しみにうちひしがれる日々でもありました。
電子化医療情報（EHR）を患者さんが持ち歩く様になるだろうと予想するものの、SUICAの導入などは夢のまた夢、その端緒すらつかめない状態でした。

そんな中、やっと医学会前の２時間だけ時間が取れて、アポイントを頂き私は外来後に急ぎ足でIPさんに向かいました。背中には日本各地を共に旅をし、雨と汗のしみ込んだ底の削れた愛用のVICTORINOXのメッセンジャーで。

汗だくのポロシャツの突然の人間にも関わらず、お会いしたIP20の方々はにこやかに迎えてくださいました。その方がたまたまその後もいろいろな事でお世話になる小山さんでした。運命の出会いだったと思います。

いつもの通り、私は自分のコンセプトを図を描き、順序立てプレゼンしてしまったのですが、小山さんはにこやかに耳を傾けてくださいました。

私は、『こんなにゆっくり聞いてくださるというのは、聞くだけ聞いてくださっているけれども、ムリだと思っているのかもしれない・・・』とちょっと不安に思ってお話していました。

『いいんじゃないかしら。』

それが小山さんの最初の言葉でした。
『だって、社会の役に立つクリニック。なら、いいんじゃないかしら。したい事を実現するのがIPですもの。』

私はそれまで背中に背負っていた様々な重荷が解けていく様に感じました。

『クリニック作るのは、無理だって言う方々がほとんどなのですが・・・』

『でも、ムリだと思わないのよね。ムリでもやりたい事を実現するのがIPのよさですし。通常の方法ならムリでしょうけど。』

そこから、IPの必殺技が幾つも繰り出され、こちらに至るのです。
真四角で無駄のない、そして真っ白な天板は大変に丈夫で、毎日のアルコール不織布の拭き掃除にも耐え続けています。

こんなに小さいにも関わらず、ちょっとした飾り棚を作ってくださり、ボーネルンドさんのSIKU(ジーク)や自作のアクセサリを飾っています。

今日は、連載原稿も一旦仕上がり、既に沢山の方々が救われているクリニックの思い出を思い出してしまいました。
もし、青山病院に勤務していなかったら・・・
もし、IPが表参道になかったら・・・
もし、小山さんの最初の言葉が私の心や固い頭を解かしていなかったら・・・

沢山の見えない、そして予想できない物事に支えられて生かされているという事を実感します。

青山病院は正式に引退が決まってしまいました。沢山の事をもたらしてくれた青山病院の事をときどき書いて行く事にしました。
私は嫌な事を書くのが大嫌いなので、他では得る事のできなかった良い思い出を綴るつもりです。
赴任仕立ての、多忙でつらかった頃、一緒に中庭のシイの木を見上げてくれたHさんの思い出を胸に、今日は終わりにする事にします。

自分のできる事は些細な事です。本当にありがたい気持ちで一杯です。