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2007年3月30日 (金)

裁判官の硬直化/考察の欠如

何人もの人の命が失われてしまっても交通事故であると、どんなに悪質な運転でも8年位の求刑となり、単純に80%として6年位の判決で終わります。

危険運転であるという証明をするのは大変に困難で、さらにそれであっても20年以下です。何人殺してもです。

そこには、その求刑で良いかどうかの考察はありません。裁判官さんは法律に沿って機械的に作業を行っているだけです。

今日の報道で、不眠不休で働いていた医師が飛び降り自殺してしまった判決で、『急患を診ている間の休み時間は実労働時間でないので訴えを棄却』という判決がありました。

ここにも考察が欠如しています。
人間が5分、10分きざみの休息を与えられて36時間労働を繰り返していけるでしょうか。

夜中に救急車の電話を受けて、それから10分寝て、救急室へ急患が運ばれてきたときに飛び起きる、その10分間が休息というのです。通常の人間は寝れません。

『急患を診ていない時間』は『急患を診るための準備やデータの解析に追われている』が正解です。
裁判官さんの考察の欠如はここに現れています。

まとめれば、1-2時間になるかもしれませんが、細切れの待ち時間の集合体の時間を『休息』と呼べる論理が理解できません。裁判で、労災の認定までおりているにも関わらずです。
私は、
重症患者さんを抱えていた勤務医の時、心が休まった時はありませんでした。なぜなら、自宅のトイレでも、休日のプールサイドでも急変があったら呼び出しがかかるからです。それでも、自宅待機ですので、もちろん勤務時間外でしょう。
院内に詰めていると、寝ようと思っても休めません。当たり前です。

裁判官の方のステレオタイプな考察の欠如した考えは世の中と完全にずれていると考えて差し支えないと思っています。
裁判官さんは人間のはずです。
このような判決を繰り返すだけなら、
場合分けと法律上の量刑を照らし合わせる単純作業をこなしているだけなら、良いダイアグラムを持ったコンピュータで十分です。
どうしてこんなにも様々な案件で考察する能力が欠如してしまっているのでしょうか。忙しくて右から左なのでしょうか。

こ のような判決が繰り返されるなら、命の危機を感じた医師達の逃散はもっと加速します。

より問題なのは、多くの働かれる方にとっても重要な判決だからです。この医師の労働状況ですら判決が棄 却されるのですから、これ以下の労働時間なら、判例しかみない日本の裁判ではまず判決で負けるでしょう。
今回の裁判の肝はなんといっても、単純に時間でしたから。
そして、それ以上の労働でも、10分の細切れの休みやデスクワークがあれば、『休息があるのだから』として裁判で負けるでしょう。

裁判官さんは、働く方々に明確なメッセージを送ったのです。
『働く人の主観の部分があるので、申し立ては正確ではない。働かせる側が
実労働であると認め、実際に作業している時間の部分だけを労働とする。』という判例を作ったのです。実際に現場で体を動かしている作業以外は労働時間に含めず、厳密にそれ以外の時間は切り捨てると、明解なメッセージを裁判官さんは国民へ示したのです。
一生懸命働くために、準備の時間がかかるお仕事も多いでしょう。
でも、それは労働時間に認めないという明解なメッセージです。
交通事故の判例のように、それぞれの事案への考察を欠如したまま、過労時間による労災に対し、今後この判例を引用して判決が進むでしょう。悲しいことです。

日本の裁判はその都度、様々な事を勘案すると思いきや、なんと、過去の判例に従う事がほとんどとの報告がなされています。そのために分厚い判例集というものが大変に重宝されるとのことです。

自分で考えていたら、とても時間がかかってしまう。

裁判の能率化とはそういったことです。求刑の80%なら、検察も弁護側も良い落としどころだろうという、ただそれだけの事です。現在の法律なら、求刑が8年で80%。その法律が良いか悪いかは裁判官さんのお仕事では無いと割り切っているのです。
裁判が長引かなければ件数が減るので能率が上がります。
ですから、裁判で何かが解決する事はありません。

こちらに裁判の空しさが良く記載されています。

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だれも自分の命を守ってくれない絶望の中で働き続けるのには限界がありますので、これまで一生懸命働いていた人々の逃散もおきるかもしれません。
今を生きる方々は、自分の労働時間の質を見極めながら働いています。
一生懸命、長時間働く人々をないがしろにするこの判決は、さらに労働に対する忌避を加速させる可能性を秘めています。
労働の二極化を加速させてしまう。

彼の娘さんが、けなげに『人の命を守るため』と小児科を目指されたのだけが救いです。
考察する能力が欠如したロボット人間なんかに負けず、良い医師に育ってほしいと願っています。

多くの医師が過酷な労働に負けないで、人間であり続けている事を誇りに思っています。

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