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2008年2月10日 (日)

もう一度読み返すべき/流れる星は生きている

『流れる星は生きている』は、私が師と仰ぐ方から勧められた本の一つでした。

流れる星は生きている (中公文庫BIBLIO20世紀) 流れる星は生きている (中公文庫BIBLIO20世紀)
藤原 てい

中央公論新社  2002-07
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海外に出ると、日本の気候の様子や、町の様子が少し客観的にみえて、その違いがよくわかる事があります。

この本を読むと、現在の日本の様子がよくわかります。

平面的で地域的な広がりを横軸、時間的な推移を縦軸とします。
そうすると、海外との比較をある時間の水平な対比となり、この本の示すものは同じ日本という地点の縦軸的な比較とも言えます。
縦軸をみる事で、『今』というものがあぶり出されるのです。

母が子を守るために死闘を繰り返すという一側面だけではなく、人間としてどう生きていくべきかの神髄が含まれていると思いました。
本物の持つ凄みがあります。

理由はわからないのですが、読みすすむごとにこみ上げる物がありました。

息子さんの『品格』という言葉に含まれる、『人としてより良く生きていくためのほこり』という概念はこのお母さんが伝えた物なのだとよくわかります。
どんなに困難な状態でも、自分の尊厳をまもるために他人の嫌な申し出をピシャリと断る力。
子供たちを守るために命を賭して前に進む力。
そういった、生き延びるための力強い力が心に響きます。

少し別な方とお話ししたとき、日本人の持つ陰湿さ、とおっしゃっていたのですが、私は違うと思います。
このような状況に陥れられたとき、初めて見えてくる人間のサガという物があり、それは責められないし避けられないと思っています。

例えば、『品格』が全くないかっぱおやじは何回も他人を死ぬかもしれない状況に蹴落とします。でも、自分が率いる人々を日本へきちんと連れ戻しました。法の隙間をすり抜け、最後の最後まで人をだましながらも大金を持って生き抜く法学生もいました。

足の裏に石をめりこませ、極寒の嵐の泥の山を素足で小学校1年生以下の子供と乳飲み子を背負って乗り越えてまで戻っていきます。
いくつもの川を溺れかけながら、渡ってたどり着いた日本。

最後の長野の風景がとても豊かな物として感じられました。
お母さんだけでなく、子供たち3人も命の危機が何度もありました。
そして、現地の方々に助けられる風景が何回も出てきます。その風景にも心うたれます。

決して、きれいごとではない、泥だらけ、汚物まみれの中からの生還です。私は、たくさんの便利でより良いシステムのために、生きものとして、人が生きていくという事を忘れかけているのではないかと反省しました。

コンビニエンスストアやファーストフードが便利さのためにどれだけの食料を捨てているのか・・・
命と引き換えの食肉なのに、命の尊厳を感じる事なく工業製品のように生産され消費されていく社会。BSEはその『共食い』の代価として現れてきた側面を持ちます。
お金と引き換えにしてまで得るべきものなのか。

本物であるものは時間がかかるし、たくさん作れません。
料理でも何でも本来は時間のかかる物です。

ちょっとの不都合にいらだってしまっていた自分を反省しました。
今の社会が、さらに便利に、さらに沢山の物を売るために、と失ってしまった物がある事に気づかされました。
この本を読むと、少しぐらいの事で文句を言う事が恥ずかしくなります。

『必死によりよく生き延びていくということ』を教えてくれます。
生きる力を与えてくれる本です。

ある時代の方なら、必ず読んでいる書との事ですが、是非とも若い世代に読んでもらいたいと思っています。

『流れる星は生きている』という書名も美しい。久しぶりに心が号泣した本でした。

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