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2009年5月23日 (土)

進化生物学からみたトンフル/ 新型ウイルスの戦略

迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか 迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか
Sharon Moalem Jonathan Prince 矢野 真千子

日本放送出版協会  2007-08-25
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新型インフルエンザは弱毒でしたが、それはウイルスの戦略として成功したのかもしれません。
ウイルス側から物事を見ると色々なことが見えてきます。
この本は新しく執筆している本のために、深く読みこんだ本の一つです。

ウイルスが増殖するためには新たな宿主に感染し続ける必要があります。
通常のウイルスに対して、私たちは免疫を獲得し、排除してしまうため、同じ宿主で一過性に増えても、いつかは消滅する運命にあります。

そのため、免疫を獲得していない宿主へ乗り移っていく必要があるのです。

『迷惑な進化』149ページの記載が役に立ちます。
進化生物学者のイーワイルドのコレラ菌の話は有名です。
下痢が強烈な強毒コレラ菌と、そうではない弱毒コレラ菌の2種類のコレラ菌があり、環境により
その性質が変化することを明らかにしました。

常識的には、菌の性質は変わらないはずです。彼ら、菌が“生き延びて繁殖するために”環境によって変化すると主張しました。

排泄物中のコレラ菌が飲料水に混ざりやすい不潔な環境ではコレラ菌は強毒化しやすい。
なぜなら、住んでいる人たちが強烈な下痢をすればするほど、感染者が増える、つまりコレラ菌が増えるからです。住人たちはぐったりしてしまってもコレラ菌の繁殖には関係が無い。

逆に、清潔な環境では、飲料水を介して増殖できないため、住人に移動してもらって接触を介して増えるしかない。そのため、弱毒化して住人に動き回って物を介したり、直接の接触により新たな宿主を得る、という戦略をとる。

マラリアは蚊を介して新たな宿主に感染します。蚊が止まれるように宿主は元気が無い方が良い。マラリアになると人は動けなくなります。そのため、マラリアは重症で、極端な話、元の宿主はある程度体内でマラリアを増やしたら死んでしまっても良い。

ヘルペスウイルスは人の中で生き続けて、接触により新たな宿主へ感染し生き延びる。そのため、持続感染していても人は具合が悪くならないし、死ぬことは無い。マラリアのように媒介してくれるものが無いので、是非とも宿主に長生きしてもらいたい。その方が、ウイルスには好都合なので、私たちの神経細胞内に無害なままじっとしています。そして、時々皮膚に出てきて、他の宿主へ乗り移る。それが唇や性器に出てくる発疹や帯状疱疹です。

環境により細菌やウイルスの性質が変化するという非常に斬新な進化論で、自然界を理解するのに大切な論理だと思っています。

さて、ふりかえって、新型インフルエンザ、トンフル。

どうやら重症化しないようです。
かれらは、感染しても人を動き回らせるという戦略をとりました。

もしかしたら、物や他の生物などの媒介者を介しては感染できないのかもしれません。そのため、感染者を重症化させずに移動させることにした。
たぶん、不顕性感染も多いでしょう。初期症状が軽微なため、検疫をすり抜ける。
感染初期から派手な症状を出すウイルスだったら、すぐに隔離されてしまい、こういったウイルスは増えられません。
不顕性感染者から不顕性感染者を生み出しているとすると、サブマリン的に広がっていて実態をつかむのは不可能です。
しばらくしたら、ランダムに選んだ採血の血清中の新型インフルエンザに対する抗体を検出する、ということで明らかに出来るかもしれませんが。

そして、彼らはまずは『世界中に満遍なく仲間を広めるという当初の目標を達成したようです。日本各地にも存在している(していた)でしょう。

次は、世界中の色々なところで変化を加えながら増殖を繰り返すことになるでしょう。
狭い環境では、なしえなかった有利な変化を獲得するかもしれません。
違う人種、種の違う鳥、種の違う豚、違う自然環境。
そういった中でランダムにウイルスは遺伝子を組み替えられる。

そういうウイルスであることを鑑みると、新型=強毒=隔離、遺伝子検査、検疫・・・という硬直化した直列思考は全くの誤りであることがわかります。

新種のアデノウイルス(のど風邪のウイルス)、ノロウイルス(下痢かぜのウイルス)が出てきても、同様の対策をとるのでしょうか。

ウイルスを生物進化学の側面から見てみると、また別な面白い側面が見えてくるものです。

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