頭痛学会で得たもの/3
次にDodick先生のセミナーが続きました。
毎日繰り返してしまう慢性片頭痛の治療についてのお話でした。
どの国でも、慢性的な頭痛に対する治療は専門医を悩ませています。
米国では、慢性的に頭痛を繰り返している患者さんの僅か20%しか診断されておらず、さらに7%の患者さんしか治療に到着できていないということでした。
日本の頭痛学会の調査では、頭痛の方の僅か10%ぐらいが医療機関を受診されているデータがでています。さらに、せっかく受診されても、その中の8割を占める片頭痛患者さんの75%が誤診されているというデータが公表されています。
そうすると、日本では慢性片頭痛の僅か5%だけがきちんと治療されているということになります。
私のクリニックで慢性頭痛から卒業されていった患者さんたちは、この幸運な5%の方たちに含まれるというわけです。
決して、アメリカがすごく進んでいるわけでもなく、日米とも、ドングリの背比べであって、両国とも慢性頭痛の患者さんはまだまだ、『痛み』から開放されていないようです。
慢性頭痛は、SSOCMPが原因になりやすいということをお話されていました。
SSOCMPとは、
Stress ストレス,
Snorting 麻薬の吸引, (もしくは、いびき、という意味から睡眠時無呼吸かもしれません)
Obesity 肥満,
Caffeine カフェイン,
Attack frequency 発作回数,
Medication overdose 鎮痛薬物乱用,
Phsychiatric combining 精神科的疾患の合併 です。
その後、片頭痛発作の脳の興奮性についてのお話がありました。
片頭痛が血管の病気といわれていた時代から、今は、脳血管の拡張は結果であり脳の興奮性の異常こそが片頭痛の本体と考えられるようになりました。
昨年の学会でも、鳥取大学の竹島先生も力説されていたように、頭痛は血管というより、脳や神経の病気なのです。
そういった意味では、片頭痛も緊張型頭痛も『中枢性感作』という面からは同じ側面を持つわけです。
今では、私はこの二つは分けられないし、分ける必要は無いのかも知れないと考え始めてています。
緊張型頭痛、と診断されても頭痛が治らない方は正しい治療にたどりつけていいない可能性が高く、要注意ということです。
先進国では、薬物乱用頭痛が大きな問題です。
慢性頭痛の大きな原因となっているからです。
この状況も、私は、仕方がないとも思っています。
幸運にも、最初からストライクな治療を受けられた方は、問題ないでしょう。
でも、頭痛外来があることも知らず、一人悩んで、あるいは時間無く、痛み止めでがんばってきた方を誰が責められるでしょう。
気がついた時から始めればよいのです。
頭痛外来を受診した日から、人生が変わっていけばそれでよいのです。
さて、Dodick先生は、面白いデータを示されていました。
モルヒネを与えてその後、投与を止めたネズミの脳では、なんと120日後でも痛みへの過敏性が残っているというのです。
バルビツレートやモルヒネ、痛み止めといった痛みを薬を使っていると、その時はよいのですが、薬を止めると、脳の痛み中枢の興奮性が高まり、痛みへの過敏性が増します。
しかも、たとえ薬物を止めても、それが長期間続くというのです。
そして、それに気が付かないと、痛み止めが引き起こした脳の過敏性上昇による痛みに、また痛み止めを飲むことになります。
まさに、薬物乱用頭痛の始まりです。
こういった痛み止めを断つということが、治療になるわけです。
痛み止めの連用をやめなければ頭痛は治りません。
注目の予防薬、トピラメート(トピナ)とボツリヌス毒素の慢性頭痛への治療効果では、トピラメートに軍配が上がっているようでした。
トピナは、頭痛治療専用ページがあるぐらい、頭痛治療ではスタンダードになりつつあります。
こういった薬物乱用頭痛からの離脱からも、慢性片頭痛への予防へもトピラメートの効果は高いようです。 その後、DHE-45((dihydroergotamine mesylate, エルゴタミン製剤)の話となりました。
公演後、女子医大の清水先生が剤形などについて質問されていたのですが、疑問に思った点を聞き取れませんでした。
その後、直接お話をお伺いする時間があり、疑問が氷解しました。
お忙しい中、引きとめてしまいましたが、快くご返事頂戴いただき、清水先生ありがとうございました。
頭痛診療のために、とても有意義な1日でした。
日本中で、頭痛に真剣に取り組まれていらっしゃる先生方が、同じ結論に収束しているというのは、とても勇気付けられました。
最後に、獨協医科大学教授 平田幸一先生、お疲れ様でした。
そして、学会のご成功おめでとうございました。
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