原著で楽しむ「Why Nations Fail」 4 / 現在完了形と対比を楽しむ
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I've seen the future, and it worksという章があります。この章では現在完了形を楽しめます。
実は、この文章はI have been over into the future, and it works.という文章に続いてでてくるものです。これを「私は未来をみた」と過去形にしてしまうのは、とんでもなくもったいない。
彼は、ソビエトという人間が作り出した新しい経済システムを見てきて、この感想を漏らしました。タイムマシーンで垣間見るような未来世界のようなソビエトに行ってきて、その経験が自分の中で『手応え』を持ち続けているので、現在完了形。
「ああ、私は未来を見てきたのだ!そして、今もそのシステムは動き続けている・・・」という感嘆にも似たニュアンスが含まれている。現在完了形には過去の出来事が現在に影響を与え続けているというパワーを持ちます。だからこそ、後半はand it worksと現在形なのです。
なので、ここでのseeは見るというのではなく、訪問するといったニュアンスが近い。
「(ああ、実際に)私は未来を訪れてきたんだ!そして、それはリアルに(今も)動き続けているのだ!」
が意味としては近いかもしれない。
この古びた世界の中でも、想像の産物ではなく、リアルなものとして動き続けているからこそ、訪れることができたんだ、と、私に実際に訪れたんだ!という手応えが残っているところが、現在完了形の醍醐味です。
決して、見た、という過去でも第三者的な傍観者でもない。主体として未来的なソビエトを訪れた感動が込められている。
同じ章で、文章の対比でもう一つ楽しめるところがあります。
Prominent among the attendees was Woodrow Wilson, president of the United States. Noticeable by its absence was any representation from Russia.
という部分です。第一次世界大戦の後のベルサイユ宮殿での会議の様子を示したものです。出席する事によって存在感を示した米国と、不在によって注目を集めたロシア。
この対比は訳本では描き出されていない。私はこんな風に読みました。
この会議の出席者で存在感バツグンだったのはウッドロウ・ウィルソン米国大統領。その一方で不在により注目を集めたのは、ロシア代表が一人もいないことだった。
そしてロシアは・・・とロシアからソビエトになり、つまづいて消滅していく姿がつづられていきます。
その中に出てくるのが前出のI've seen the future, and it works.なのです。
こんなふうにこの本の著者は読者を楽しませようと、いろいろな仕掛けを考えてくれています。訳本のあとは、ぜひ、原著で楽しみましょう!
私は訳本の上に、ペーパーバックを乗せて、わからない単語を訳本さんに依存して読み進めています。
スイムーランースイムは体を鍛え、本は脳を鍛える。
今年の夏の楽しみです。
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