「自律神経失調」は、なにか良くわからない体の不調を指し示す言葉のこともあります。
『「自律神経の乱れ」の誤解』というコラムを書きました。
TVメディアの取材などで、クルーの方々に説明することが多かったからです。
本当の自律神経の乱れ、自律神経失調は神経系統が侵される脳神経の病気以外ではほとんど見られません。私たち神経内科医は、本当に自律神経システムの調子を崩した患者さんたちを経験しています。恐ろしい状態で、目を離せない状態です。
ギランバレー症候群の自律神経失調は大変にやっかいで、命を脅かします。血圧が全く上がってこない。自律神経の変調が重症になると命取りとなります。
交感神経や副交感神経の一方を意識的に活性化することもできません。
たとえば、敵に襲われたときに活性化する交感神経。襲われたと体が反応した瞬間に交感神経優位に変わります。目を開けたり、音にびっくりしたり、ちょっと不安なことを思い浮かべるだけでも、即座に優位になる。それほど瞬時に優位性は切り替わる。
自律神経は乱れやすく、調子を崩しやすいという印象もあります。
精神的不調を示す言葉として使われることもあります。どちらも誤り。
医学的には、自律神経は大変に強固なシステムで、最後の最後まで調子を崩すことの無い神経システムです。家電製品や車の組み込み型OSのようなものです。
たとえば人の命が尽きる最後の最後まで、自律神経は律儀に働き続けます。脈拍数や呼吸数、血圧、瞳孔の大きさ、消化管の運動などを調節し続け、私たちを支え続けます。調子が崩れることは最期までありません。
体のホメオスタシスを律儀に守り続ける自律神経。
自律神経の指令を守って、体のシステムを動かし続けるにはエネルギーが必要です。ですから、自律神経システムに負担がかかればエネルギー消費量が増えて、疲労が蓄積する。夏バテ、秋バテといった季節病もそこからくる。
つまり、自律神経に負荷がかかっても、そのもの自体の調子がくずれることはなく、その影響で体の負担が増すためによりエネルギーが必要になり、疲労する。
命を支え続ける自律神経システム自体は、最後の最後まで調子を崩すことなく動き続けます。そのため、医療用語的に「自律神経が乱れる」という医療者は、「虫垂炎」を「盲腸」というぐらいほとんどいません。
誤解の多い言葉の一つかもしれません。