生物としての人間 / サイエンスの立ち位置
悩むが花 伊集院 静 文藝春秋 2012-05-27 売り上げランキング : 52039 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
以前は即答型だった伊集院さんのコラムですが、今週号の話題は面白い。
親子のDNA鑑定は一から間違っている、と冒頭でばっさり。
「言わずもがな」というキーワードにつなぎ、人間の社会のルールに言及。
知らないこと、言わない方が良いことも世の中には有り、
大切なのは人間の幸せで有り、真実を暴露することでは無いとつなぎます。
誤りのあるかもしれない人間の作ったサイエンスで、人間社会が右往左往するなんて意味がないじゃないか、親子として育ったのだったら、それは親子ってよぶんだよ、というダンディズム。人間を生物として動物行動学の観点からみています。
私たち医師も、遺伝性疾患でもあえて調べない事が良くあります。知っても治療法につながらないなら、悩みを増やすだけだからです。
たしかに、自分がどういうタイプの遺伝子をもっているのか、子供がどんな性質の遺伝子なのか、調べてみればわかる事実も多いでしょう。
けれども、努力では解決できない遺伝子情報を知ると言うことは、悩みの種が増えるだけかもしれない。例えば、かわいい子供がサッカーをとても好きなのに「俊敏性に劣る」とか言われてしまうかもしれない。何も解決しない。
なぜなら、人間というのは複雑で、いくつもある遺伝素養に無限の環境因子が加わって変化していく存在だからです。
目の前にある人々の存在を信じて、慈しんでつましく暮らしていけば、それだけで良いのだと思っています。サイエンスは、決して人の存在を押しのけてはいけない。サイエンスの立ち位置は、名バイプレーヤーとして人々の幸せをサポートする脇役であるべきです。
伊集院さんのコラムの論理の組み立ては見事です。
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