日本栄養学会、協会 大連合会 / 管理栄養士さんにエール / パネルディスカッション3 / 博報堂キザシ
栄養カウンセリング研修・栄養相談専門士に期待する〜医師の立場から〜
秋葉原駅クリニック 大和田潔
私は、救命救急から在宅医療、東京医科歯科大学附属病院や総合病院などで臨床に身を投じて30年ちかくの年月が経過した。多彩な医療システムで働かせていただいてきた。
また、厚生労働省の『医療等の供給体制の総合化・効率化等に関する研究』も行い、日本全国のさまざまな医療機関を見学し、論文もしたためた。
「あの患者さんは、食事を食べられるようになったから生き残るよね」
「食欲がある人は元気だよね」
などという会話が、医療現場ではよくなされる。このような背景をもとに、現在はクリニックを開業し10年以上が経過した。
患者さんのためだけに存在するクリニックを作りたかったことが、開業の動機である。患者さんのためにクリニックが投資し、管理栄養士さんから患者さんに栄養相談を行ってきた。
また、おべんとうのメーカーとタッグを組み「薬では無く〝食事を処方する〟」というメソッドも模索してきた。当院内の管理栄養士と、お弁当メーカー内の管理栄養士がやり取りするシステム作りもしてきた。こうなると、もはや「日々の食事が薬」となり、処方を減らして行くことができるし、その〝果実〟を患者さんとわかちあってきた。
従来の医療システムは、「将来の合併症予防」の目的で検診を行い、投薬を行ってきた。これは、ともすると「検診で網をかけて患者を得て、薬で医療機関につなぎとめる」事になりかねない。
本来ならば、医療機関は、「健康になる場所」であり「元気を回復したら縁を切るべき」場所であるはずである。それなのに、いつまでも投薬で患者をつなぎ止めようとする。
わずかな高血圧、わずかな血糖値の髙値にもかかわらず「内服をしないと、あなたの命が危ない」と脅されたりもする。
僕はそれを勝手に〝怖がらせ型の診療システム〟とよんでいる。
私は、そういった新しい方法論を模索してきた。
医療機関からすると、お金をかけて患者数をへらすため「逆インセンティブ」になる。けれども、インターネットが広がり、市井の人々の知識の底上げが行われている状況では、かえって有利になることもある。
そのことは、博報堂さんの取材でも話した。キザシという連載になっている。
週刊文春さんのスーパードクターに選ばれたり、日本の名医なんていうのにも時々掲載されてきたけれど、患者さんの診療に必要な“今は存在していない物”を作り出して当たり前のものにして地道に診療してきたにすぎない。
今、若い先生にそれらを伝えている。クリニックは、”場”にすぎない。未来活躍していく彼らは、これから彼らなりの工夫をして”良い医療”を実践していくことだろう。
僕は、専門医の指導医でもあるので他の先生の診察ブースも随分みてきた。患者さんと会話がほとんど無いブースも多かった。
食事は、そんな雑談のなかでしかうかがえない日常生活の一つだけれども、実は、そういった事に興味をはらえる、時間をとれる医師は少ない。僕も不十分なので、管理栄養士さんの補完が頼りだ。
状況を打破するには、専門家に登場ねがうしかない。
管理栄養士との連携が不可欠だろう。さもなくば、投薬に依存することになる。処方薬材料が増えれば、医薬品メーカーは潤い薬局も活況を呈し、それを主導する医師の立場もあがろう。
一方、管理栄養士は大学を卒業した後の、系統的に臨床を学ぶ方法が欠如している。我々は、その状況を打破するため管理栄養士が臨床を学べる「栄養相談専門士」制度を色々な先生と共に開始している。卒業生たちの臨床上の悩みにも応えてきた。
彼女らだって、最初は、〝栄養学を通して、人々を救いたい〟と思ったはずだ。
なぜ、そう思うかというと、LENCにいらした栄養士さんがそう言ったからだ。彼らが自分でそう言っているのだから、真実なんだろうと思う。大きな機会損失だ。なんて、もったいないのだろう。
人を救おうとする人間の意思は、尊い。
飲み込みにくいおじいちゃんのご飯を作りたかった人もいたし、糖尿病の両親を護りたい、病院で働きたい・・・最初は人を救おうとした。彼女たちも。その気持ちをへし折ったのは、誰なんだろう。
あるとき僕らがシンポジウムをしたとき、客席からスクッと立った若い女性がいた。彼女は言った。
〝いつも、ひとりぼっちなんです・・・〟
最後はコトバにならなかったけれど。
壇上の僕らは、早川先生も、〝大丈夫。がんばろう〟しか言えなかった。
あのとき、壇上には厚労省や大学教授、総合病院の先生もいらしていた。そして、全員が、彼女と一緒に残念に思っていたと思う。
僕は、過去は変えられないから、今は何も言えない。
同時に、未来は変えられるだろうと思った。
LENCを手伝っているのは、そのため。
涙した彼女には、もう会えない。
彼女たちも僕らも悲しい思いをするのは、もう十分だ。
シンポジウム後に、僕らは、ずっと話し合った。〝涙をみるのはもういやだ。皆さんのチームを手伝います。〟僕はそういったと思う。
僕は頭痛外来もしているから、女性のさまざまな側面を目の当たりにしてきた。
人知れず、ただでさえ痛かったり、カラダがつらかったりする。そんなときは、寂しかったり不安だったりする。彼らは、真実に笑顔の仮面をつけて人に気づかれないように、痛みをこらえていることが多い。人前で涙するなんて、よっぽどのこと。
そうやって、彼女らは臨床を学ぶ場も無く、現場に投入され孤独な戦いを強いられている。僕らは、もともと能力がある彼女らに臨床での力を与える場を作りたいと強く願った。そうして、志高い人々があつまって、研修会を形作った。
今後、栄養学会の研修システムと相互補完していくことが、偉い先生方から提案されてもいる。皆とここまでこれたことを、とてもうれしく思う。すばらしい風景を見せていただいた、早川先生、野口先生、土佐先生にはこの場で〝ありがとうございます〟と伝えたい。
私は、栄養相談専門士のシステムを使って、有能な管理栄養士が数多く臨床の現場に身を投じてくれることを望んでいる。
医師、看護師、パラメディカルの人々と共に、管理栄養士が患者さんの病と戦い、患者さんと苦楽をともにし、患者さんと共に時に笑い、時に泣いてくれるような日を夢見ている。
私は、今回のシンポジウムで皆さんに語りかけたいと思っている。
そして、希望を胸に現場に戻ってくれることを心から願う。
これからやってくるだろう〝管理栄養士が期待される世の中〟に備えて欲しい。
しなやかで良い切れ味を持つ君たちが、援軍となって戦ってくれることを待っている。僕らが人の役にたつために医師に身を投じたのと同じように、皆と、臨床の場で患者さんにふりかかる病の厄災と戦おう日を夢見て居る。
患者さんもご家族も、皆さんの登場をを待ち望んでいるに違いない。
かちどきは、勝ち鬨と書きます。
鬨(とき)は、戦場での、エイ・エイ・オウやサッカー会場のオォオォオォのような、皆で一斉に挙げる地鳴りのような声。
その声に勇気をもらい、僕らは戦い続ける。
是非、一緒に戦おう。
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