黒いグローブみたいだった左手の熱傷が治癒過程に入りました。広い範囲だったけれど、抗生物質は嫌いなので飲みませんでした。本当の“豚皮”。
局所の感染制御のキモは、細菌のエサになる壊死組織の除去です。抗生物質は多剤耐性菌MRSAを生み出すだけにしかならない。
グロすぎて全部は載せられない。
両手全体がI度熱傷、毛穴が無くててかてかしたり出血して痛覚低下しているところはII度の深いもの、毛根が残っているところはII度の浅いもの。
手の甲の小さな水疱は、I度。右手も痛かったけれど、やけどした最初の週は、むくんだ右手だけでキーボード打ちました。東大のザンプ希望の可愛らしい学生さんに笑われたのは、そのころ。
信頼している青木先生の青木皮膚科に行きたかった。でも時間ないし、腐ったら医科歯科に行こうとおもっていました。敗血症になると、意識障害でたりして診療間違うし戦線離脱が長引くから。
途中、ぬれた犬のような腐敗臭したときは、痛いけれど頑張って洗いました。ひとりでうなり声あげるても、ドアしめれば大丈夫。軸がずれたモーターのような壊れた機械にすぎない。
9の法則で3%なので、痛いけれど死なない。点滴も不要。
死なないけど、ベロベロの皮膚を見て、「よく頑張った」と自分を慰めました。
医師は常に孤独。
仲間で働く看護師さんがうらやましい。陽の光の中、消毒されたシーツで手際よくベッドメイキングするナースは美しい。常在菌や桿菌につつまれている彼女が、まるで無菌のように輝いて見える。あんまり見るとセクハラ。おっさんは邪魔にならないよう、ごみ箱を掃除したり血を拭いたりして手伝う。
ハサミでチョキチョキした部分の皮膚。たくさん流し場に捨てたので一部分。
僕は、脱皮したんだとおもう。蛇の脱皮やザリガニの脱皮は楽しそうなのに、僕の脱皮は面で痛い。
傷をみたとき、「もしかすると全治1.5か月?」とおもったので、ひと月弱で腐らないで治癒過程に入ったのはうれしい。昔から、僕は傷の治りがとても速かった。
小学校低学年のころ、「おもしろーい」と言われてガマの穂を斜めに切った先端で女子に切り付けられて刺されたりしました。本当は、雷魚を刺す棒なのに。その傷も1週間で治りました。子供に破傷風の概念なんてなかった。
小学校高学年のころ、左足のかかとの皮膚がけがで裏返ってしまって外科の先生に20針縫ってもらったときも3週間ぐらいでなおりました。
使ったハイドロドレッシング。サランラップがいいとされているけれども、手のひらは形が複雑。
浸出液多かったので、こちらにしてみました。風呂に入るときには、西友のビニールぶくろにガムテープ。
やけどした初日も、無印のタオルを湿らせてガムテープでガンガンに巻いて片手で診療を続けました。局麻必要かもと思ったのは、最初の3日間。痛みで中途覚醒は7日間。
今はたまにロキソニンで済むようになりました。でも、基本痛み止めも飲まない。ルミネで左手に人がぶつかってきたときには、うずくまって動けなくなったので、原宿本店で買ったアスレタのカバンに手を入れて移動するようにしました。
大型の傷は腐敗させないことが重要。“化膿”なんていうけれど、腐った組織と白血球の戦いに過ぎない。手は一時的に壊死組織が腐敗したんだと思う。遊離し始めた皮膚の根元にも膿はなかったから。期限切れヒビスクラブのおかげか。
肘曲げて洗っていると、まるで術場に入る前のようだ。紙ナプキンで拭いて、雰囲気を楽しみました。その後は、その辺の手拭きタオル。傷は無菌になんて保てない。常在菌に守られたい。
もう、痛みにもだいぶ強くなった。もし切傷を負ったらその辺にある裁縫道具で自分を縫うこともできそうだ。そんなプチプチは、きっと全然痛くない。
ふくらはぎを自転車でケガした時に、事務の普通のホチキスで止めた時もあまり痛くなかったし。そうだ、汗かくとステリストリップははがれてしまうので、ホチキスの上からガムテープでとめたんだった。そのときも消毒なんてしなかった。ガムテープのままお風呂だった。人間は傷が小さければ、すぐ止血する。
それを見た先輩医師は、“患者さんは消毒した医療用ホチキスにしてせめてバンドエイドつかえよな。見た目も大事だし。”と言われたのを思い出す。医療用のホチキスなら丈夫だからステープルがちぎれて埋まって、ピンク針でほじくる苦労は減るだろう。当直の消化器の先生に医局のソファーで作業しながら話していたら、彼は爪を切っているのかと思っていたので大笑いしていた。彼は、植木の針金が手掌を貫通したけど引き抜いて自然治癒したとのこと。
僕は、朝、テレビをながめて、マメルリハを肩にのせてコーヒーを飲むことにしている。10分。時間を見るため。たまに医師が何かいったりしている。
“お前の豆を煮た代償はこれなんだぞ”と手をみせると、奴は、肉が再生していないところを狙ってガブっとくる。しばらく痺れる。油断ならない。人肉や皮膚は、穀物が主食のインコに有害なんじゃないだろうか。碧く美しい彼女は、果物とおいしいシリアルでいてほしい。
「きっとこの人、DICを合併した腎不全の熱中症なんてみたことないんだろうな」とか
「きっとこの人、熱傷の患者さんがせん妄になったときセデーションしたことないんだろうな」とか
「外傷で血圧低下したときに反射性に頻脈になることや、脳出血でレベル300の人にクッシング現象がおきることみてないだろうな。意識が無い患者もDOAになるまで、自律神経は失調せず人間を守り続ける・・・自律神経失調???????」とか
おもったりする。自律神経は脳が生きている限り失調しないから“自律神経失調”はありえない。他の総合内科専門医や脳神経内科医は、どう思っているんだろう。僕と一緒で“ひとごとだからいいか”なのか。
若い先生は、もっと目が澄んでいるはずだ。僕は、色々見過ぎてめしいてしまった。
いろいろなことが専門医の先生ならわかるんじゃないんだろうか。大丈夫なんだろうか。ああいったものは、エンターテイメントだから不正確でいいのだろうか。
大昔、PCBの出どころや摂取される経過を語らず髪の毛のPCBが寿命にかかわるという珍説を披露していた老人はどうしたのだろうか。もう満足したのか。
どうでもいい。彼らのコンプライアンスが通るギリギリのグレーを狙っているんだろう。でも、番組の内容憶えている人もいるかもしれないから針小棒大は良くない気もする。どうせ報道番組内の医療の時間は、“尺を調節する”緩衝材に過ぎない。大きな突発事件が起きれば不要になって収録は破棄される。その程度のものでしかない。
5年ぐらい前、歯医者に行く時間無いので、グラグラしていて痛い左下顎の奥歯もペンチで抜いて放置している。下顎のくぼみの中に歯は浮いているだけだ。歯茎は、すぐ治る。週末は内科学会だった。
今回、I-II度にすぎないけど広い範囲の自分の熱傷も夏でも腐らせず治した。ずっと痛くて、たまに、神経痛の電撃痛が重なる。雷みたいなもんだ。
自分の傷を縫ったり、熱傷をデブリしたり、熱中症の危険を減らして
熱馴化をして運動したりする医師の方を、患者さんも選びたいんじゃないだろうか。僕は、“面で発する痛み”を新発見した。優しい人になった気がする。
患者さんは、こういった標準治療を自らに施して治す力のある医師にかかりたいんじゃないのだろうか。クリニックの医師たちは、救急病院での治療経験を経た国公立の医師だ。
ごまかしはきかない。ぬれた犬の匂いで、じょくそうの嫌気性菌を思い出したり、鉄っぽい卵が腐敗したような匂いで肺炎球菌の痰を思い浮かべるのが大事なんじゃないだろうか。在宅に行く神経内科医は、ばい菌の中で戦いつづける。
そういった医師が人の役に立つんじゃないかとおもう。良い“衛生兵”として、僕は、日々働き戦う人々の側にいようと思う。サランラップとホチキス、ガムテープがあればいい。
患者さんの現場は常に戦場だ。僕らは、彼らを守るためにガムテープで傷をふさぎながらチームで戦いをつづける。やってくることはない援軍を、ほのかに期待しながら。未来世紀ブラジル。
夢を妄想する自由は最後まで何者にも奪うことはできないはずだ。