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2020年4月 7日 (火)

大きな魚と魚とウミウシの背中

 Kowaretasakana2

自由に気持ちよく海を泳いでいた魚。
毎日、泳ぎ方を練習するのが日課でした。

ある日、岩に体をこすってしまい一枚うろこがはがれてしまいました。

「傷んだところがあったら、いったん体をちぎってこの特殊傷テープで治すといい」と大きな魚が言いました。
「特に、こんな感染戒厳令の夜は。
傷んだところからばい菌が感染して体全体にまわってしまうとよくない。
他の仲間にうつさないためにも、大手術が必要だ。」

「それに、」と大きな魚は続けました。

「俺は、いくらだって傷テープをもっている。
すきなだけ具合の悪いところをちぎっておいてあげよう。
そのあと、どんどん貼って治せばいいから。一緒にやろう。」

魚が悩んでいる間に、大きな魚は魚が傷んでいると言ってあちこちをちぎり始めました。
魚も自分のヒレをちぎったりしました。
とても痛かった。

そのあと、高級な傷テープで貼り付けました。
ちょっと痛みが和らぎました。

魚は、テープで貼ったヒレでテープを貼ったりしました。
うまく動かなくなったテープで貼ったヒレ。

「傷んだところは全部治ったよ」大きな魚は言いました。
「高級傷テープたくさん使ったし。」

自分ではわからなかったので、だれかに聞きたいとおもいました。

「無料で治すなんて、俺ってエライでしょ」大きな魚は言いました。
「すぐに治るとおもうけれど、後は君次第だね!テープは高級なんだから!」

・・・

魚は、良くなっていない気がしました。
そこで、物知りなウツボのおじいさんのところに行きました。

「僕治ったかなぁ」と尋ねました。
「いっぱい良いテープ貼ってもらって、なんとか泳げているから」

ウツボのおじいさんは魚をみると、悲しい顔をして少し涙を浮かべて言いました。

「そうだねぇ」

魚は不安になりました。

「元に戻ったのかな」

「そういうわけではない」

じゃ、どういうこと?

「でも、治ったんだよね」

「そうだねぇ」

・・・

魚は、答えが判らなかったので質問はやめることにしました。
その代わり、大好きなあたたかな海面に行こうとおもいました。

「あそこには陽の光があるから」

でも、なかなか進みません。
沈んで行っているように思います。

そして、大丈夫といわれたテープを眺めていました。
自分から一枚ずつはがれるテープ。

貼りなおしても、どんどんはがれていく。

「貼れば治るって言っていたのに、おかしいなぁ」

不思議に思いました。
いつもよりもヒレを動かすことにしました。

そして、ゆっくり沈んでいきました。

ゆっくり、ゆっくり沈んでいきました。

暗く寒くなるにつれて、心臓の音も弱っていきました。

・・・

「あらあら、これはひどいわね」

海底に横たわる魚にウミウシは言いました。

「なんか泳げなくて、動けなくなっちゃった。悪いところとったはずなのに」

「ふぅ」ウミウシはため息をつきました。

「そうなんだ。じゃあ、こうしよう。」

「もっといいテープがあるの?」

「そうじゃなくて、君が治すんだよ。
その身体じゃ無理だろうから、僕の背中に包まれるといい」

ウミウシの背中に魚はなんとか転がり込むと、疲れて眠り込んでしまいました。

・・・

「おはよう。君は、長い事寝ていたね。」

魚がウミウシの声で目をしました。
ちぎれたところから小さなヒレが生えていました。

「ちっちゃ」

「ないよりましだろ。僕の体からは再生因子を含む粘液が分泌されているんだ。湿潤治療っていうんだ。」

「テープよりいいの?」

「そりゃそうさ。人にやってもらうんじゃなくて、自分で回復する方がいいに決まっている」

「悪いところを切り取って、はりつけるんじゃなくて?
感染戒厳令の時には、悪いところは切らなくっちゃいけないんだ。」

「そうかな。何が体によいか、自分で見て考えなくっちゃ。
正しいことは、君のカラダが君に教えてくれていると思うけど」

「そうだね・・・
僕、どうして、自分の、ヒレをちぎったりしちゃったんだろ・・・」

魚は、ウミウシの背中の中でまた眠りにつきました。
陽の光にきらめく海面の夢をみながら。

「目が覚めたら、答えがみつかるといいね。
海の底には誰かが決めた感染戒厳令なってものはないから、ゆっくりするといい。
自分で感じて、自分のことを決めていいんだよ。」

ウミウシは、魚を背負いながらゆっくり海底を歩いていきました。
おいしい海藻を食べながら。

ウミウシが食んだ(はんだ)海藻の断端からは、ゆっくり煙のように滋養の薬が海に立ちぼっていました。

海の仲間たちのカラダをつつみこみながら。

いつまでも。

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