日本ではカゼ・コロナ。連日診療の思い出 その1
この写真は、東京に自粛要請されていた5月2日のもの。秋葉原から人々が消えた日のものです。
クリニックでは2月、3月、4月、5月の連日、複数医師とスタッフ全員で診療を続けました。時短もしなかった。
開けていて救うことができた「コロナ以外の」たくさんの患者さんたちにお会いできました。それを綴っていこうと思っています。
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アルコールが足りない、マスクが足りない、といわれたころは実費配布をはじめました。お上から禁止されるまで続けました。滅菌された容器にアルコールを分注することまで禁じられ何もできなくなりました。クリーンベンチがないので、分注自体を無菌で行うことができなかったからです。そんな必要ないのに。
規定濃度にならないアルコールが高値でうられていたり、厚労省が医療機関に販売したアルコールさえ低濃度と報道されていたり、マスクが高額で取引されるなか、ささやかな僕らの患者さんを守りたい行動は禁止されていました。
コロナウイルスが空気中に蔓延し、ちょっとでも外出すると僕らが呼吸するたびに肺に入り込んでくるがの如く連日報道がなされていました。大量の空気で希釈されてしまえば、そんなのウソなのですが。
僕は、ファクトに従って行動を続けました。マスクしないで電車に乗り、つり革につかまり、通勤しても発熱もしなかったし、1日として体調はくずさなかった。周りの目が気になり出した4月からマスクするようにしたけれど、「僕も日本人です」というポーズに過ぎませんでした。今でも診療中以外は苦しいから鼻は全出しで、N95(ノーズ95%出し)です。
スタッフみんなも毎日体温を測り続けたけれど、全員平熱をつづけました。怖がるスタッフたちを励ましました。
ほぼ毎日僕は、できるだけ客観的にブログをつづっていきました。連日出てきていた最新情報をプロットすると、日本はNYや武漢にならないことがわかっていました。ワイドショーの話はブラフだったし、日本の学者先生の話も何か違う気がしました。
詳しくは書けないけれど複数の救急の先生からいただいていた状況も、海外の医療崩壊の様相とは程遠いものでした。日本では元気な高齢陽性患者数が多くて疲弊されていたことは、最後まであまり報道されませんでした。大量の感染者用病床を急に作れ、といわれたとまどいも報道されなかった。志高いジャーナリストさんは、現場を正確につたえたけれど。
空き病床をたくさん抱え続け、通常診療を停止したため多くの総合病院は経済的苦境におちいっています。総合病院のことは当事者ではないし伝聞だから、僕は書くつもりはありません。でも、報道されていた姿とは随分違います。最後の方は物理的余裕を語る代わりに、精神論を語り始めたりしていました。
そういったことは思い出として無くなっていく。専門者医委員会の議事録がなかったように、なにもかも記録されずに無くなっていく。人々の記憶が次の出来事で上書きされるまでのうたかた。
☆☆☆
大きな違和感を感じながら、僕らは秋葉原という東京の都心で診療をつづけました。
その日その日ブログをつづり、来院された患者さんやオンラインで診療された患者さんが恐怖にさいなまれないよう励ましてきました。僕は、医療者を応援するのもいいけれど、コロナ報道で恐怖に陥った多くの一般のひとびとを励ますべきだと思ってきました。
それに、日々起きていることはコロナだけじゃなかったはずです。ブログでマイナス検索の仕方を書きました。スーパーから食料品までなくなって、恐怖心にさらに輪をかけました。そして、メディアは自分たちにクラスターしながら何も考えず延々とその画像を流し続けた。
「コロナウイルスが恐ろしいということを伝えたいので、先生は日々どう暮らしているか診療しているか取材させてほしい」なんて依頼もありました。即座に断ったけれど。あるいは、「早晩PCR少ないから日本は崩壊するので、コメントをいただきたい」とか。そんなことしたら、ただでさえ疲弊しつくしていた保健所の方々をさらに窮地に追い込んでしまうのは目に見えていた。
彼らに、お上はPCRの大変な作業をする人々に援軍も送りませんでした。援軍がきたのは、戦場がおちついてからです。ちょうど、キングダムで信がランカイを倒して政のところにたどり着いた頃、王騎の援軍がきたようなもんです。
「歯科診療は危険とおもいませんか?」という依頼もあった。歯科診療は、海外HIV流行の苦い経験から感染予防はほぼ完璧。だから問題ないと一蹴しました。歯科医の先生の努力と誇りを守るのも医師の仕事です。
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僕は、数ヶ月のあいだコロナについてブログで違和感をかき続けました。何の力ももたないことはわかっていたけれど、記録にはなるとおもいました。リアルタイムに読んでくださった方もおおいでしょう。ときどき電話でお礼や励ましもいただきました。
今となっては、後出しジャンケンじゃない証明になってよかったです。そんな刺激的な毎日をおくりつつ、僕らクリニックのスタッフは電車通勤して患者さんの診療をしました。「日本じゃカゼ・コロナ」なんていっていいつづている異端の僕を、スタッフは遠い目で眺めていた気がします。でも本当なんだから仕方ない。
数ヶ月、コロナかもしれないという人の不安に応え続けました。
体温計が無いという患者さんには、貸し出しました。
マスクがないという患者さんには、処方箋を送る封筒に同封し続けました。配ってしまうなら、売買ではないから違反ではないと判断しました。
小さなお子さんをお持ちのお母様には、分注しない家庭用アルコールをボトルごとわたしました。それなら、違反ではないし日常使いには十分なはずだから。
ウエルパスという専門的な消毒アルコールをボトルごと宅急便で差し上げたこともありました。良い思い出です。クリニックには消毒用アルコールの一斗缶もあったしマスクも何箱もあって在庫は十分だった。助け合い。
2020年はインフルが流行るとおもうから、10月までワクチンの空白をつくらないようにムダを覚悟でインフルワクチンを買取って備蓄しています。コロナは免疫を下げるみたいなので、帯状疱疹ワクチンとともに。そう言ったベテラン医としての先読みの正しさが、多分患者さんを守る。
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前置きが長くなりました。このコロナ騒動の数ヶ月の間、たくさんの患者さんと一緒に病気と闘いつづけました。数人の方は、専門医療をうけたあと回復されクリニックに再来を続けてくださっています。コロナ騒動の数ヶ月は、それほど長い期間でした。これから、そのいくつかのエピソードをジャスミンの花の写真のタグで綴っていこうと思います。黄色い付箋紙に描いたコロナウイルスの絵のタグではなく。
概念や机上の数値ではなく、僕らが過ごしたリアルな日々。
日々ながされる手を変え品を変えの恐怖をあおる報道は、コロナでは無い重症の疾患から患者さんを守り続ける僕らの背中に放たれる大量の矢のようなものでした。具合悪い患者さんが恐る恐る外出して来院されたりしていました。「300」スリーハンドレッドという映画があります。300人のスパルタン兵に、圧倒的多数のペルシア軍が放つ矢が雨あられのように 天から降り注ぐ映画です。
僕ら複数の医師とスタッフたちは、降り注ぐ矢のなかで診療を続けました。今でもブラフや恐怖を煽る文言の矢がにわか雨のように、パラパラ降ってきます。
数ヶ月のあいだの思い出を数話つづろうとおもいます。コロナは日本ではカゼの流行に過ぎないから、すぐに書ける日がやって来るはずだと思ってメモしていました。僕らのような前線のベテラン医師は、患者さんの論文発表や医学会発表もたくさんしているから患者さんに迷惑かからない思い出をつづる方法を習熟しています。
僕にとっての数ヶ月はコロナ関連じゃないことがたくさんありました。真面目な取材もあったし、新しいものを作ったり、教育用コンテンツの収録もありました。スタジオ収録など3密を気にすることができない状況もありました。コロナウイルスに関連しない建設的な作業を続けました。
noteには、短く詩的につづろうと思う。
僕ら医療者が守るべき患者さんが抱える圧倒的多数の疾患は、一過性流行のカゼ・コロナではなく、これからもカゼ・コロナではありません。
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